犠牲者一人一人を呼ぶ追悼式
相模原市の障害者施設で入所者19人が命を奪われた事件から10年を迎えるにあたり、7月25日、市立あじさい会館で追悼式が行われた。会場には遺族や入所者、関係者ら187人が集まり、静かに黙祷を捧げた。壇上には、入所者が折った19色の折り紙や、故人をしのぶ19枚の絵が飾られ、参列者は被害者の個性を思い起こした。
式では、県や市、園を運営する団体の代表らが相次いで言葉を寄せ、差別や偏見を明確に否定する姿勢を示した。式辞で登壇した黒岩祐治知事は、事件の背景にあった差別意識を強く批判し、記憶と教訓を次世代につなぐ重要性を訴えた。
「自分勝手でデタラメで完全に間違ったもの」
黒岩知事は、事件現場で感じた当時の「胸が締め付けられるような息苦しさ」を忘れないとし、事件を知らない世代が増える中でも思いをつないでいく意義を強調した。本村賢太郎市長も「偏見や差別のない共生社会を築いていくことが私たちの使命」と述べ、運営側の山下康理事長は、差別や偏見が依然として残る現状を指摘し、追悼に加えて事件の教訓を未来につなぐ時間にする必要があると語った。
当事者の声と日常を思い出す場面
追悼式では、利用者代表として島田昌尚さん(56)が壇上に立ち、園長の促しで短く声を上げて追悼の気持ちを示した。永井清光園長は壇上で、障害のある人にも感情や意思があり、心が生きていると訴えた。会場の空気は静まり返り、参列者の多くが目を伏せながら一人一人の名前に思いを重ねた。
式の締めくくりに行われたのは、黒岩知事による19人への呼びかけと、障害の有無にかかわらず互いの人格と個性を尊重することをうたった憲章の朗読だった。短い言葉の積み重ねが、被害者を個人としてとらえ直す場をつくり出していた。
地域と国の責任を問い直す
式には上野賢一郎厚生労働相も出席し、国としても分け隔てなく尊重し合う社会の実現に取り組む姿勢を示した。遺族や支援者にとって、行政や運営団体の表明は事件を社会の問題として受け止め続けることを求める重要な応答でもある。
- 追悼式日時:7月25日
- 会場:市立あじさい会館(中央区)
- 参列者:約187人
- 被害者数:入所者19人
県によると、25日正午までに寄せられたデジタル献花は950件に上った。また、26日には津久井やまゆり園で午前10時から午後6時まで一般の献花を受け付ける予定とされている。
| 項目 | 数 |
|---|---|
| 追悼式参加者 | 187人 |
| 犠牲となった入所者 | 19人 |
| デジタル献花(25日正午時点) | 950件 |
記憶の継承と日常の保障
式で繰り返されたのは、単に過去を悼むだけで終わらせないという決意だ。遺族や入所者、支援者は、被害者一人一人の生活の喜びや習慣に触れながら、差別に根ざした暴力が再び起きないための仕組みづくりを訴えている。その声は、地域福祉や医療、行政の対応を問い直す契機でもある。
参列したある関係者は、式を離れた後も「一人でも多くの人に当時のことを知ってほしい」と話していた。10年という節目は、忘却の流れに抗い、次世代へつなぐための努力を継続する必要性を改めて示した。
今回の追悼式が示したのは、被害の記憶を守る行為が、個別の遺族の慰めにとどまらず、社会全体の倫理観を問い直す公共性を持つということだ。行政や支援団体の言葉とともに、当事者の声と日常の具体が会場に刻まれた。これらをどう制度や地域の実践につなげていくかが、今後の課題である。
追悼式とは別に、26日の園での献花は、事件の現場で改めて思いを寄せる場となる。参列や献花を通じて、事件の教訓を社会として引き継ぐ努力が続けられることが期待される。
(森田 拓海)