対立が浮き彫りになった12年目の県政
佐賀県知事の山口祥義氏(61)は、2015年の初当選以来、党派に縛られないという姿勢を掲げ続けてきた。最近の動きでは、9月下旬の知事選事務所開きに約400人の支持者を集め、子育て世代や災害支援団体のメンバーを前面に出すかたちで、非党派的な色彩を強調した。
「私は県民につくられた政治家だ」
この言葉は山口氏の自己像を端的に示すが、同時に県議会、とりわけ自民党系会派との関係に複雑さをもたらしている。県議会での一般質問では、山口氏が議員の発言をメモし、その場で答弁を書き換えることがあるとされる。準備した答弁に固執せず即応する姿勢は、現場主義と評価される一方で、根回しを重視する会派側との摩擦を生んだ。
代表的な争点が、山口氏が公約に掲げてきた県立大学構想だ。2023年12月の定例県議会で事業費を巡る修正が可決されたことに対し、知事は県政史上初となる再議を要求し、結果的に当初案が可決された。この一連の経緯をきっかけに自民会派は分裂し、県議会の勢力図と執行部との関係に大きな影響を与えた。
新幹線対応と交渉の成果・課題
九州新幹線西九州ルートのうち、新鳥栖〜武雄温泉区間の整備方針が未定の点も、山口氏の手腕が試される場となった。知事は国土交通省の当時の事務次官と繰り返しトップ協議を行い、7月に環境影響評価(アセスメント)実施で国と合意した。合意書には建設費負担を長崎県にも求める姿勢や地域振興策が盛り込まれている。
支持者の一部は、政権寄りの知事であればここまで有利な条件を引き出せなかったと評価する。一方で、今年に入って出馬を表明した候補から具体的なルート(佐賀駅ルートでのフル規格開通)を掲げられたことが、慎重だった新幹線対応に道筋をつける必要を生んだとの見方もある。知事自身は、南回りルートを「一考に値する」としてきたが、6月にはどのルートにすべきかについて「フラット」との発言をしている。結果として、アセスを特定ルートに限定しない手法は、各ルートの推進派への配慮とも受け止められた。
対自民関係の現状と選挙への影響
山口氏と距離を置く自民県議らは、知事の手法が「選挙の争点つぶし」につながったと批判する。アセスの実施には一般的に3〜5年程度を要するとされ、国や長崎県との費用負担調整など課題は残る。自民側からは「一歩どころか10センチも進んでいない」といった厳しい声もある。
知事選に向けては、山口氏のほかに元航空自衛官の新人・吉田ゆかり氏(52)、吉田卓善氏(47)らが立候補を予定している。自民県連は現職と新人の両方に「支持」を示す異例の対応を決め、党内の対応も割れている。こうした状況は、今後の県政運営だけでなく、選挙後の議会との関係性にも影響を与えかねない。
| 候補者 | 年齢 | 現・新 |
|---|---|---|
| 山口 祥義 | 61 | 現職 |
| 吉田 ゆかり | 52 | 新人 |
| 吉田 卓善 | 47 | 新人 |
住民への影響と今後の焦点
争点化している政策はいずれも住民の生活や地域経済に直結する。県立大構想は教育や地域活性化、若年層の定着に関わり、新幹線ルートは利便性や観光振興、地域産業の物流に影響する。どちらも長期的視点と財政的な見通しが必要であり、実行段階では国や隣県との調整が不可欠だ。
今後注視すべき点は次の通りである。
- アセスの実施期間と対象ルートの範囲、及び国・長崎県との費用負担協議の進展状況。
- 県立大構想の事業費や運営体制の具体化、公金投入に対する県議会の合意形成。
- 知事選の結果が県議会の勢力構図に与える影響と、選挙後の執行部と議会との協調可能性。
また、今月1日には週刊文春電子版がSAGAアリーナに関する報道を掲載し、反知事派を刺激する場面もあった。山口氏は報道内容を否定し、「選挙が近いからなのか分からないが、印象づけだったり、レッテル張りだったりという側面もあると思う」と述べている。報道と説明が選挙戦でどう扱われるかも、有権者の判断材料の一つになるだろう。
知事は「正々堂々と政策で議論できる土壌であってほしい」と訴え、推薦を見送った自民県連については「私の仕事の仕方などが原因だとすればやむを得ない」と語っている。12年にわたる県政運営の評価は、2か月後に投票を迎える有権者の判断に委ねられる。
(報道:プレスリリースジェーピー佐賀県担当記者 西村 剛)