XR技術で“移動”を観光資源化
JR福井駅と福井県立恐竜博物館の直行便として2024年6月に運行を始めた新感覚XRバス「WOW RIDE(R) いこっさ!福井号」が、2026年7月5日に累計乗車数10万人を達成し、同日JR福井駅で記念セレモニーが行われた。県副知事ら行政関係者や運行事業者が出席し、10万人目の乗客に記念品が贈呈された。
このバスは車内の車窓・前方・天井まで映像ディスプレイで覆い、AR・VR要素を用いた没入型の映像コンテンツを提供する点が特徴だ。恐竜の登場や地元キャラクターによる観光案内など、乗車そのものをエンターテインメント化することで、目的地への移動時間を観光体験として価値化している。
「目的地までの移動時間をエンターテインメント化します。」
利用状況と推移
発表資料によれば、年度別の利用実績は以下の通りで、導入後着実に伸びている。
| 年度 | 乗車数(概数) |
|---|---|
| 2024年度(2024年6月~2025年3月) | 約3.3万人 |
| 2025年度(2025年4月~2026年3月) | 約5.5万人 |
| 2026年度(2026年4月~2027年7月5日) | 約1.2万人(途中集計) |
2025年度は前年同期比で開示値ベースにおいて142%の伸びを示しており、年度を追うごとに利用が拡大していることが示された。
地域観光への波及と課題
このサービスは単なるシャトルバスではなく、移動中に恐竜や地域情報を見せることで、恐竜博物館の来訪動機を喚起する役割を担う。福井県が持つ恐竜文化や地域の風景・食文化を映像と対話型AIで紹介する仕様は、来訪者の満足度を高め、滞在時間の延長や周辺消費の増加につながる可能性がある。
一方で、観光需要の増加に対応するための運行頻度や座席供給、安全管理、そして高齢者や視覚に制約のある利用者に対するアクセシビリティ確保など、実運行に伴う課題も残る。映像や音声情報に依存するサービス設計は、利用者の多様性に配慮する対応が必要だ。
- 利便性:福井駅から乗換えなしで恐竜博物館へ直行できる点が分かりやすい利点。
- 集客効果:映像とAI対話による体験価値で来訪意欲を喚起。
- 運営課題:運行本数、利用者の多様性への対応、安全・コスト面の持続性。
サービス内容と連携体制
映像演出の総合演出は堤幸彦氏、キャストには今井翼らが参加し、地元メディア関係者や恐竜ブランドのキャラクターも出演するなど、地元と外部クリエイターの協働によるコンテンツ制作が進められている。さらにAI対話システム「Talk With」を車内に搭載し、乗客が登場人物と会話しているような体験を提供している。
運行事業者や関係機関としては、西日本旅客鉄道(JR西日本)や京福バス、福井県、福井市、勝山市、そして民間の株式会社福井RIDEコーポレーションが関わる複数主体の連携体制が整えられている。地域自治体と民間が共同で観光資源を磨き上げるモデルケースとして注目される。
住民と来訪者に向けた実用情報
チケットは専用販売サイトや観光案内所、空席がある場合は当日バス乗り場でクレジットカード決済により購入可能。往路・復路で異なるコンテンツを用意しているため、リピーターへの訴求も行っている。旅行計画や団体利用を検討する際は事前の座席確保を勧める。
今後、地方創生の観点からは以下がポイントになる。
- 運行本数の増加や季節運行の最適化による利便性向上。
- 高齢者や障がいのある方へのバリアフリー対応(聴覚・視覚両面の補完)。
- 周辺飲食・土産店との連携による地域経済への波及効果の可視化。
今回の10万人達成は利用拡大を裏付ける一方で、サービスの持続性や地域全体の受け皿づくりを問い直す契機ともなる。短時間の移動を観光体験に転換する取り組みは、福井の観光戦略に新たな方向性を示しつつある。
(林 佳奈/プレスリリースジェーピー福井県担当記者)