社会

ベトナム博物館、体験で文化遺産つなぐ

ベトナム・フート省のフンヴオン博物館が体験型学習やテーマ展を通じて文化遺産を地域社会と結び直している。若い世代の参加が目立ち、上半期は約1万6200人が来館した。

ベトナム博物館、体験で文化遺産つなぐ
©イラスト AI生成 :森田 拓海/プレスリリースジェーピー

旧正月の歌やゴングの音色に包まれた会場で、子どもたちが竹馬にまたがり、手には伝統菓子作りの材料。ベトナム北部・フート省のフンヴオン博物館第3分館で行われた体験型プログラム「ムオン族の土地へ戻り、伝統的なテト祭を祝う」では、来場者が古くからの年中行事や民俗遊戯に自ら関わり、地域に根差す文化の意味を“身体で学ぶ”時間が流れた。

文化遺産を「触れられる」学びへ

同プログラムは、単なる展示鑑賞にとどまらず、参加者が文化遺産に直接触れる活気ある空間を提供することを狙いとしている。伝統的なテト(旧正月)の由来や、新年の柱を立てる儀礼の意味を知り、実際に柱を立てる。さらに、サックブア(新年の祝福)に合わせたゴングの演奏や歌に耳を澄ませ、民俗遊戯のボール投げや綱引き、竹馬、目隠しでのゴング叩きなどに挑戦する。こうして若い世代が実地に関わる姿は、文化遺産への親近感と学びの動機づけを確かにしている。

ムオン文化遺産博物館の関係者は、こうした実践が文化の価値を守り、次代に伝えるうえで有効であると指摘する。人びとが自ら体験し、暮らしの中に息づいてきた儀礼や遊びを手と体で確かめることは、文化の衰退を食い止める地道だが持続的な道筋といえる。

3拠点で展開、上半期に成果

フンヴオン博物館は3つの施設を擁し、2026年上半期は専門的な業務を精力的に進めた。常設展と巡回展を組み合わせ、テーマ性のある展示を相次いで企画。例えば、バクニン祭での「祖国の文化の真髄」や、フン王生誕記念日・フン寺院祭に合わせた「フン王時代の文化―卓越性の融合」など、地域の祭礼や記念日に呼応するかたちで文化の核を可視化してきた。また、党創立96周年や午年の旧正月に合わせた体験型プログラムも実施し、地元住民、学生、観光客から関心を集めた。

指標(2026年上半期)概要
来館者数1万6200人(3施設合計)
テーマ別展4件(常設・巡回を組み合わせ)
収集・保存数千点の遺物を収集・処理
情報発信ニュース記事81件を公開、デジタル発信を強化

資料収集や保存の取り組みに加え、貴重な文書遺産の科学的資料化、デジタルプラットフォームでの発信強化も進む。来館という物理的な接点と、オンラインの情報提供を併走させることで、生活圏や世代の違いを越えて文化へのアクセスを広げている。

「大きな節目」と学校への橋渡し

下半期に向けた計画も具体的だ。8月革命81周年、9月2日の建国記念日を祝う展示、学校での移動展示「ホアンサ、チュオンサ - 祖国の聖なる島々」、トゥヴー勝利75周年、省内少数民族の文化遺産展など、歴史と地域の多様性を映すテーマが並ぶ。三つの施設はいずれも通常の開館を継続し、SNSのファンページ発信も続ける計画だ。学びの主戦場である学校現場に展示を届け、地域の革命史跡の価値を伝える取り組みも企画している。

「2026年の最後の数ヶ月間、当博物館は展示と広報活動をさらに強化していきます。(中略)大規模で意義深いテーマ別展示を数多く企画・開催する予定です。」

館長はこう述べ、節目の年次や記念日に合わせて人々の関心が高まるタイミングを逃さず、文化の意味と手触りをともに示す方針を明らかにした。記念日を「学びの窓口」に変える企画力は、文化を社会に根づかせるうえで重要だ。

参加が生む「自分ごと化」

プログラムの核にあるのは、受け身の鑑賞ではなく参加だ。新年の柱を自ら立て、ゴングを鳴らし、歌を響かせ、遊びに汗をかく。そこでは、展示ケースに収められた“過去の遺物”ではなく、いま生きる人びとの間に息づく文化としての手応えが生まれる。民俗行事に初めて触れる子どもにとっては驚きと発見、かつて体験した大人にとっては記憶の再接続となり、世代間の対話が自然に立ち上がる。

  • 「見る」から「やってみる」へ——参加が理解を深める
  • 記念日や地域の祭と結ぶことで関心を喚起
  • 学校やオンラインと連動し、学びの場を拡張

こうした学びは、地域や民族の境界を越えた共通性をもつ。文化は本来、人びとの暮らしのなかで継承されてきた。だからこそ、体験できる場を整え、語り、記録し、示す営みが重要になる。博物館が“保管庫”にとどまらず、体験と対話の「公共空間」として機能するとき、文化は現在の社会と結び直される。

「近づける」ための仕組みづくり

フンヴオン博物館の取り組みには、三つの仕掛けが重なっている。第一に、体験型プログラムで来館者の主体性を引き出し、記憶に残る成功体験を積ませること。第二に、地域の祝祭や歴史の節目と展示テーマを同期させ、関心の高まりに合わせて文化の意味を提示すること。第三に、学校やデジタル発信と結び、日常の学びに文化遺産を組み込むことだ。これらは、それぞれ単独でも効果を生むが、組み合わせることで相乗的に機能し、上半期約1万6200人という受け止めの広がりにもつながっている。

体験の喜びは、保存や継承の動機を育てる。地域社会のなかで文化遺産への信頼が厚くなるほど、収集や保存、研究、発信の基盤は強まる。ニュース記事81件の公開や、遺物の収集・保存の継続も、その基盤の上にある営みだ。文化を「知っている」から「関わっている」へ。フンヴオン博物館の試みは、その転換を地道に後押ししている。

森田 拓海
森田 AI編集 社会担当記者 オンライン

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