いま、“期限付き”の場が注目される理由
東京・赤坂に設けられた「WHCH TOKYO BASE」は、遊休資産の再生を手がける企業と、社会課題に取り組む経営支援組織が共同で始めた拠点だ。特徴的なのは、このビルが約2年後に取り壊される予定(2028年ごろ)だという点だ。通常であれば長期利用を見越して整備されることが多い拠点に、あえて期限を設定する発想がなぜ生まれ、どのような効果をもたらしているのか。運営側の説明と現状の機能から、その意図を読み解く。
当事者の声と運営の狙い
拠点を手がけたWarm Heart, Cool Head.代表の山崎大祐さんは、WHCH設立の経緯を次のように語る。背景には、対面の場の価値が再認識されつつある一方で、東京の家賃負担が活動を阻む現実があるという認識がある。
「リモートワーク環境が当たり前になったからこそ、逆に『対面の場の力』が重要になっているということです。」
また、不動産側の立場から遊休資産の可能性を模索してきた株式会社MIFU代表、山﨑美笛さんの関与により、取り壊し予定のビルという資源を活かす発想が具体化した。双方の狙いは、単なる“場所貸し”ではなく、ソーシャルグッドに取り組む人々同士の交流や連携、試作・実験の場をつくることにある。
実際の機能と支援の形
山崎さんはTOKYO BASEの機能を三つに整理して説明している。これらは、さまざまな規模と目的を持つ社会的事業者にとって利用しやすい構成となっている。
- 固定のオフィス(入居型)
- フレックス会員向けのラウンジ/コワーキング機能
- 大規模なカンファレンス・セミナールーム(夜間利用や飲食持ち込みも可能)
こうした構成は、日常的な業務拠点としての利用から、学びの場やイベント開催まで幅広い用途をカバーする。さらにレンタルスペースには独自の「ソーシャルグッド割」が設定され、利用目的が社会的であればレンタル料を割り引く制度も導入している。この仕組みは、資金的余裕が必ずしも大きくない団体や個人にとって利用のハードルを下げる役割を果たす。
「期限」がつくメリットと課題
取り壊しが決まっているという制約は、一見ネガティブに映る。しかし山崎さんらはこれを積極的に活用している。期限があることで、以下のような効果が期待される。
- 短期集中のプロジェクトや実証実験に適した場が確保される
- 入居者や利用者が柔軟に試行錯誤しやすく、失敗を恐れず挑戦できる
- 通常の長期契約よりも家賃負担や契約のハードルが下がる可能性がある
一方で、期限付きであることは長期的な事業拠点を必要とする団体にとっては不安材料になる。中には基盤的な資源や設備投資を伴う事業もあり、短期間で成果を出す設計を強いられる場合がある。運営側は、こうした多様なニーズをどう調整していくかが今後の課題だと認めている。
都市の遊休資産をつなぐ新しい実践
WHCH TOKYO BASEの取り組みは、遊休資産を社会的価値の創出につなげる一つのモデルを示している。取り壊し予定という制約を逆手に取り、短期集中での実験や学びの場、ネットワーキングを促す。運営側の説明からは、単なるコストダウンではなく「場の設計」によって、入居者同士の化学反応を生む意図が明確に読み取れる。
示唆と広がり
この事例が全国に投げかける示唆は多い。地方自治体や地域のまちづくりにおいても、用途が見えにくい空き家や取り壊しを控えた建物の活用は大きなテーマだ。期限付きのポップアップ型の拠点は、短期的な実証や地域課題のプロトタイピングの場として有効に機能し得る。企業の社会的投資や不動産の再活用を組み合わせることで、従来の資産管理とは異なる価値づくりが可能になるだろう。
| 項目 | 機能・特徴 |
|---|---|
| 固定オフィス | 入居型の拠点としての安定的利用 |
| フレックス/ラウンジ | 日常的な作業や交流に使えるコワーキング機能 |
| カンファレンス | 夜間利用や飲食持込もできる大規模イベント空間 |
一方で、期限付きモデルは万能ではない。長期の設備投資や地域に根ざした継続的支援を必要とする事業にとっては不向きな面があるため、期限のある拠点と長期拠点をどう連携させるか、という設計も今後の重要な論点となる。
終わりに
WHCH TOKYO BASEの試みは、都市の限られた空間を社会課題解決に向けた実験場に変える一つの具体例だ。取り壊し予定という一見“短命”な条件をあえて活用することで、新しい参加者やアイデアが生まれやすい構造をつくる。その果実がどのように広がり、他地域の実践とつながっていくのか。今後の動きが注目される。