電気が止まれば高層生活は一変する
首都圏に林立するタワーマンションは、多くの設備を電力に依存している。大地震が発生して停電が生じれば、まずはエレベーターが停止し、給水用ポンプも稼働を失う。結果として上層階には水が届かず、トイレや日常的な生活行為が困難になる事態が想定される。
東京大学名誉教授の平田直氏は、停電と給水停止が同時に起きることで高層住戸の生活が立ち行かなくなる点を指摘している。建物に非常用発電機が備わっている場合でも、共用部や重要設備を優先的に動かす設計が一般的で、各住戸のコンセントまで電力が行き渡るとは限らない。また非常用発電の稼働時間は燃料備蓄量が制約となり、目安はおよそ72時間とされている。
- エレベーター停止:階段での昇降が不可避。
- 給水停止:屋上タンクに水をくみ上げられなければ上層階には届かない。
- 備蓄の限界:住戸の備蓄が尽きても補充に行けない可能性が高い。
避難所は全住民を受け入れられない現実
避難所の収容数は、主に倒壊・半壊による被災者数を想定して算出される。免震構造などにより倒壊が想定されないタワーマンションの高層居住者は、当初の想定に含まれていないことが多い。平田氏は、備蓄が尽き、エレベーターが動かない状況で上層階の住民が避難所に向かう必要が生じても、避難所が受け入れきれない可能性を強調する。
「備蓄の水や食料が尽き、エレベーターも動かなければ、上層階の住民は避難所に行かざるを得ないでしょう。けれども、避難所はそんな人々をとても収容しきれない」
こうした構造的なギャップは、個々の備えだけでは解消が難しい。特に高齢者や小さな子どもがいる家庭では、自力での階段昇降や長時間の生活維持は負担が大きく、外部からの支援が届くまでの長期化に備える必要がある。
行政間の協定と首都機能の分散が鍵
平田氏は、水害対策で行われている自治体間の避難受け入れ協定を地震対策にも応用することを提案する。具体的には、被災時に基礎自治体ごとに別の地域と協定を結び、避難場所や受け入れ体制を事前に確保する取り組みだ。これにより、居住地周辺の避難所が満杯になった際の受け皿を広げることができる。
さらに、首都機能の一極集中について平田氏は分散の重要性を訴える。一つの代替都市に機能を集中させるのではなく、複数の地域に分散させる考えを示している。
| 課題 | 影響 |
|---|---|
| 停電 | エレベーター停止、給水ポンプ停止 |
| 給水タンク容量 | 建物全体の使用量の目安は1日分の半分程度 |
| 非常用発電 | 稼働の目安は備蓄燃料で約72時間 |
住民が今すぐできる実践的な備え
個々の住民が取れる対策もある。以下は現実的かつ即実行可能な項目だ。
- 階段での移動を想定した荷物の軽量化と、各人分の飲料水・常備薬の備蓄
- 共同での被災後行動計画の作成(同一階や上下階の住民での連携)
- 自治会や管理組合との事前協議で、非常用電源の利用方針や共用部の運用ルールを確認
- 近隣自治体の避難受け入れ情報や、自らが向かえる避難所の位置を把握
これらは個人の備えを高めるだけでなく、マンション単位での対策強化につながる。管理組合レベルで燃料の備蓄量や非常用発電の運用条件を見直すことも重要だが、設備投資や運用ルールの変更には時間と費用が伴う。
長期的視点での政策と暮らしの両輪が必要
大規模災害に備えるには、個人・集合住宅・自治体・国が役割を分担して対応策を整備する必要がある。住民側は日常からの備蓄と近隣連携を強化し、自治体は受け入れ力の拡大や自治体間協定の整備を進める。国や都市計画の面では、首都機能の分散と複数拠点による耐災害性の向上が課題として残る。
都市に住む利便性と、災害時のリスクは表裏一体だ。高層住宅に暮らす人々は、日常の快適さを維持しつつ、非常時の具体的行動計画を持つことが生活防災の第一歩となる。
(小林 陽菜/プレスリリースジェーピー全国編集部・生活担当)