助産師が中学生に命の瞬間と現実を伝える
さいたま市見沼区の七里中学校で、助産師による特別授業「あなたが生まれた時~助産師が伝えるいのちのお話」が行われた。講師は「なないろ助産院」院長の田川智美さん(48)で、生徒数が228人の同校に対して、思春期の心身に関わる実践的な説明と体験を交えた授業を実施した。
田川さんは、助産師の仕事内容について「赤ちゃんの誕生に立ち会うだけでなく、生涯にわたり寄り添う役割がある」と説明した上で、思春期の生徒に向けて命や性に関するポイントを平易に解説した。
- 産声の意義を伝える音声教材を使用し、誕生直後の感動を共有
- 妊娠に関する基礎知識(精子・卵子・子宮の役割や月経の重要性)を解説
- 性の多様性やさいたま市のパートナーシップ制度にも触れ、差別や偏見への理解を促進
映像やクイズ、首の座っていない赤ちゃん人形を使った抱っこ体験などを取り入れた授業は、参加した生徒にとって視覚的かつ体験的な学びの場となった。抱っこ体験では、生徒たちが自然に優しい表情を見せる場面もあったという。
「産声を上げて生まれてきたことは、人生で一番大変なことを乗り越えたということ。自分を誇らしく思ってほしい」
田川さんは、授業内で産声の音を流しながら、誕生の瞬間を説明した。「この産声を聞いて私は何万回と安心しました。なぜならこの子が生きることが確証されたから」といった説明で、生徒が自分自身の誕生を肯定的に受け止める助けになった。
また、性をめぐる実務的な知識も丁寧に扱われた。妊娠初期における受精卵の大きさを具体的に示し、妊娠すると月経が止まることの意味を強調するなど、生理や性に関して正確な基礎知識を示した。田川さんは生理の有無が女性の健康管理にとって重要であることを明確に伝えた。
授業は性の多様性にも言及し、生まれた時の性別が必ずしもその人の人生で同一ではない可能性に触れた。LGBTQに関する説明では、同性婚をした2人の写真を示すなど具体例を交え、さいたま市のパートナーシップ制度に触れることで、地域の制度と関連づけて理解を深める狙いがあった。
| 実施校 | 七里中学校(さいたま市見沼区) |
|---|---|
| 講師 | 田川智美(なないろ助産院院長、48歳) |
| 生徒数(同校) | 228人 |
授業の締めくくりでは、田川さんが生徒に向けてメッセージを送った。
「皆さんこれまでの人生で絶対に頑張った日がある。それは生まれた日。皆さんは誰かを笑顔に、そして幸せにしたという事実があることを忘れないでくださいね」
こうした授業は、単に知識を伝えるだけでなく、生徒の自尊感情(セルフイメージ)や他者への思いやりを育むことを目的としている。特に思春期は身体的・心理的な変化が著しい時期であり、正確な情報と安心して質問できる場を提供することが重要だ。
今回の実施は、田川さんが2010年から続ける小中学生向けの活動の一環で、年間を通じて50か所以上で授業や講演を行っているとの説明があった。地域でのこうした取り組みは、家庭や学校だけでは補いきれない性や命に関する教育を補完し、地域全体の理解を深める役割を担う。
さいたま市内では、性的多様性やパートナーシップに関する制度が存在することも周知の対象となり得る。地域の教育現場が行政制度や医療現場とつながることで、若年層が必要な情報や支援につながりやすくなる。今回の授業は、そうした接点を生む好例と言える。
保護者や地域住民にとっては、授業の内容や取り組みの意図を理解することが、家庭での話題化や日常の子どもへの接し方に直接つながる。学校は今回の授業を契機に保護者説明会やフォローアップの機会を設けることも考えられる。また、質問や相談が生じた際の窓口(学校の養護教諭や地域の保健・医療機関)を明示することが重要だ。
今回の授業は、さいたまの地域社会が子どもの成長にどう関わるかを考える上で示唆を与える。今後も学校・家庭・医療・行政が連携して、思春期の子どもたちが安心して成長できる環境を整えていくことが求められる。
(執筆:吉田 亮 さいたま支局)