島に働き口をつくる取り組みと現状
有人国境離島法の延長が決まったこの夏、長崎県内で進められてきた雇用機会拡充事業の実績が改めて注目を集めている。自治体と民間の連携で、島に新たな仕事を生み、移住や定住につなげることを狙ったこの制度は、2017年の施行以来、一定の成果を挙げてきた。
県内関係7市町では、2025年度までの9年間で、交付金を活用した創業・事業拡大は計971件、これによる雇用の場は計1764人分に上った。実際に雇用に至ったのは約9割の1553人で、そのうち約3割に当たる429人が島外からのU・Iターン者だった。
- 創業・拡大件数:971件(25年度まで、9年間)
- 創出された雇用の場:1764人分
- 実際の雇用者:1553人(うちU・Iターン429人)
一方で見える「頭打ち」の兆候
しかし数字の分布を見ると、事業の勢いは初年度をピークに鈍化している。雇用実績は初年度の340人を境に減少傾向となり、4年目以降は年間で150人以下で推移している。県関係者は、その要因として「島内の主な事業者が制度を一通り使い切ったこと」をあげる。すなわち、新規事業や拡大に踏み切った事業者が多くを占め、同じ事業者が再び交付金を使って雇用をさらに増やすという“2巡目”が進んでいない現状がある。
また、全国的な労働力不足の影響は島にも及んでいる。事業の要件に新規雇用が求められるため、人を確保できなければ申請に踏み切れないケースが出ている。結果として、支援の「器」はあっても、そこに注ぎ込むための要素──人材や事業アイデア、地域内での連携──が不足している場面が目立つ。
「こんなに使い勝手がいい制度はない」
こう語るのは五島市の農業生産法人社長だ。交付金を複数回活用し、移住希望者が滞在できる宿泊事業の開業などに踏み切った事業者は、制度の有用性を強調する。一方で、その事業者も人手不足を痛感しており、単独での雇用拡大には限界を感じている。島の受け入れ体制や採用の仕組みを横に広げ、複数の企業で人材を共有する「採用のハブ」化といった発想が必要だと語る。
背景にある構造的な課題
今回の報告が示すのは、制度そのものの評価と現場の課題が同時に存在するという現実だ。交付金は創業や拡大のリスクを下げ、事業者の決断を後押ししてきた。しかし、事業の持続性や地域全体での雇用創出という視点では、制度だけで解決できない問題が浮き彫りになる。
主な論点は次のとおりだ:
- 「2巡目、3巡目」に向けた支援の弱さ:一度支援を受けた事業者の再申請や更なる拡大を促す仕組みが不足している。
- 働き手の確保:島内外からの人材流入を継続的に実現するための受け入れ・定着支援が必要。
- 横(業種間)と縦(計画の深化)の支援:事業アイデアの水平展開と、個別事業者に対する伴走型支援の両面が求められる。
自治体と事業者の取り組み、今後の方向性
県はこうした課題を踏まえ、創業に必要な情報を集約・発信するウェブサイトを今年度中に整備する計画だ。優れた創業例の共有や事業計画策定の伴走支援を通じて、関心を持つ事業者を「横」に広げると同時に、個別事業者への「縦」の支援も強化する狙いだ。
事業者側にも工夫はある。ある企業は、自社だけでなく島内の複数企業が採用で連携する枠組みを模索している。小さな島では単独企業で大量採用するのは難しいため、島全体で人材の受け皿を作る発想が合理的と考えるためだ。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 創業・事業拡大(件数) | 971件 |
| 創出された雇用の場 | 1764人分 |
| 実際の雇用者 | 1553人(うちU・Iターン429人) |
| 初年度ピークの雇用実績 | 340人 |
政策評価と地域の声をどうつなぐか
政策面では、延長という判断は一定の評価を受けるが、次の段階は「実行力の強化」にある。交付金を配るだけでなく、事業の種を掘り下げ、持続的に人を呼び込み、地域経済として循環させるための仕組み作りが課題だ。
島で暮らす人たちにとって、働き口があるかどうかは生活の死活問題である。今回のデータは、制度が短期的には効果を上げていることを示す一方で、長期的な持続性に向けた設計変更や現場に根差した伴走支援の必要性を明確に示している。今後、県や市町、事業者、住民がどのように連携し、2巡目・3巡目に向けた再投資を促すかが、島の未来を左右するだろう。