羅臼での実戦に近い訓練、地域の初動体制を強化
羅臼海上保安署に配属された若手の海上保安官が、海難発生時にいち早く現場に駆けつけることを目的とする海面救助員の認定を目指し、実地訓練に取り組んでいる。道内の海水浴シーズンを迎えるこれからの時期、沿岸での事故発生が増える懸念がある中、地域の初動対応力の強化は住民と観光客の安全に直結する。
訓練は羅臼の海域で実施され、救助想定に沿った搬送、立ち泳ぎ、装備トラブルを想定した長距離泳法などが行われた。これらはいずれも認定試験の主要項目であり、海面救助員として最低限必要な技能と体力を確保することを目的としている。
「行方不明者もまだいるので、私も赴く機会があれば、私も赴いて助け出したいという思いがある。立派な海面救助員として救えるような命や溺れてしまった方がいれば、すぐ動いて助け出したいのでスピーディーに少しずつ課題を克服していきたい」
この言葉は、訓練に臨む海上保安官の強い使命感を表している。訓練を受ける側、指導する側ともに実践に即した技術の向上と、声の出し方や連携といった基本動作の徹底を重視しており、現場で迅速に対応するための習熟が求められている。
海面救助員制度の目的と道内の現状
海面救助員制度は2021年度に導入され、潜水士の資格がない地域でも初動で救助活動を行える職員を増やすことを目指している。道内で潜水による救助が可能な職員は31人と限られており、潜水士が常駐しない地域では初動対応に空白が生じる恐れがあるため、この制度の意義は大きい。
| 認定試験の主な項目 | 訓練での評価点 |
|---|---|
| 要救助者の搬送と立ち泳ぎ | 安全かつ確実に搬送できるか |
| 装備トラブルを想定した長距離泳法 | 救命胴衣やレスキューチューブに問題があっても100メートル以上泳げるか |
| 救助用具の取り扱い | 応急処置や搬送補助の習熟度 |
制度導入以降、潜水による救助ができる人員が集中しないよう、各地で海面救助員の育成が進められている。羅臼のように沿岸漁業や観光が盛んな地域では、初動の早さが生死を分ける場面もあり、制度は地域の実情に合致した対応策といえる。
過去の事故が訓練の動機に
訓練に参加する保安官が海面救助員を目指すきっかけの一つとして、過去の海難事故が挙げられる。特に知床沖で発生した観光船沈没事故では多数の乗客・乗員が犠牲になり、行方不明者が残ったことが地域と海上保安の課題として強く意識された。こうした事件は、日常の安全対策と非常時の初動力の両方を見直す契機となった。
現場での迅速な救助は、専門資格の有無にかかわらず最初に向かう人員の対応力に依存する側面がある。海面救助員は潜水を必要としない範囲での救命能力を高めることが狙いであり、初動での時間短縮と被害軽減が期待される。
住民・観光客への影響と実用情報
沿岸地域の住民やこれから羅臼周辺を訪れる観光客にとって、海面救助員の増員と訓練強化は安心材料になる。ただし、それだけで事故防止が完結するわけではない。以下は関係者が訓練や広報で強調している注意点である。
- 海況を確認し、無理な海水浴や遊泳は避けること
- 遊泳時は複数人で行動し、離岸流や急変する潮流に注意すること
- 万一の際は周囲に助けを求め、可能な範囲で位置情報を伝えること
海上保安署は地域の海難情勢を踏まえた注意喚起や海難予防の啓発を継続しており、訓練を通じて初動での対応能力を高める努力が続いている。羅臼の職員は今年9月に予定されている認定試験に臨む意向で、合格すれば地域の救助力がさらに向上する見通しだ。
今後の課題と展望
海面救助員の育成は前進しているが、道内で潜水救助が可能な人員の少なさは依然として課題だ。長期的には人員配置、訓練機会の拡充、装備の整備が求められる。特に観光シーズン中は、地方自治体や観光業者との連携による予防策と情報共有が重要となる。
羅臼で訓練に臨む海上保安官たちの取り組みは、地域の安全を支える基盤を補強するものだ。住民と訪問者の双方が海の危険性を理解し、現場の人員と連携して安全確保に努めることが、事故を減らす最も確実な方法である。
(取材・文=佐藤 大地、プレスリリースジェーピー北海道担当)