血圧計や体温計で広く知られるオムロンが、企業向け健康管理サービスの拡充を目的にM&Aを積極化している。傘下の産業保健・健康経営支援企業が、外部から健康診断支援事業と特定保健指導事業を取得する方針を示したことを契機に、ヘルスケア機器にとどまらない事業展開が鮮明になっている。
事業拡大の中身と狙い
オムロンは近年、ハードウェアである医療・健康機器の製造販売に加え、医療データサービスや企業向けの健康管理サービスを傘下に収めることで、事業の幅を拡大してきた。今回、産業保健や健康経営支援を担う子会社が、外部事業を取得することで、企業の健診運用や特定保健指導までを包含するサービス提供体制を強化する。
取得対象の健康診断支援事業は、大企業や大規模保険組合など、複雑な人事制度や分散する拠点を抱える法人ニーズに応えるきめ細かな対応力が特徴とされる。オムロン側は、こうしたノウハウを取り込み、従業員の健康管理を一貫して支える体制を整える狙いだ。
構造改革後の投資シフトと戦略
オムロンは業績悪化を受けた構造改革を完了し、成長投資へ軸足を移している。直近の決算資料では、今後のM&Aの重点先として主力の制御機器領域を掲げている一方で、ヘルスケア関連でも事業の強化を図る方針が明確だ。制御機器事業は売上高に占める割合が最も大きく、成長投資の中心に位置づけられている。
一方でヘルスケアでは、機器の製造・販売にとどまらず、データサービスや企業の健康管理に至るバリューチェーンの上流・下流を結びつける取り組みを進めることで、健康分野でのプレゼンス向上を目指している。
期待される効果と課題
今回の買収により、企業側は以下のような付加価値を期待できる。
- 分散拠点を持つ大企業でも統合的に健診の運営や予約代行が可能になること。
- 特定保健指導を通じた疾病予防・重症化抑制により、従業員の健康改善と医療費の適正化を図ること。
- データ連携を強化することで、機器・サービス・データを結び付けた新たなソリューション創出につながること。
一方で、異なる事業領域の統合には運用面での調整や顧客対応の均質化、データ利活用に関わるプライバシー管理など、解決すべき課題もある。特に企業の人事制度や保険組合ごとに要件が異なるため、取得した事業のノウハウをどう社内に展開し、サービス品質を維持・向上させるかが鍵となる。
数値で見る現状
オムロンの直近の継続事業売上高は7673億5100万円で、営業利益は599億3500万円となっている。部門別の売上構成比は次の通りで、制御機器事業が売上全体の過半を占める。
| 部門 | 売上構成比 |
|---|---|
| 制御機器事業 | 53.4% |
| ヘルスケア事業 | 18.9% |
| 社会システム事業 | 18.8% |
| データソリューション事業 | 6.7% |
データソリューション事業に関しては、より広範なデータサービスを含め、全社売上に占める比率を段階的に引き上げる目標が掲げられている。
企業・産業への波及
オムロンの今回の動きは、単一製品メーカーからサービスとデータを組み合わせたプラットフォーム事業への転換を促す一例だ。国内の労働人口が減少し、働き手の健康維持や医療費抑制が企業経営上の重要課題となるなかで、企業内の健康管理ソリューションに対する需要は高まっている。
また、制御機器分野でのM&A優先方針と併せて、今後は製造分野とヘルスケア分野の双方での投資配分が注目される。既に買収や売却を通じて事業ポートフォリオを再編してきたオムロンは、今後も成長領域を取り込む一方で非中核事業を切り離す戦略を継続する見込みだ。
まとめ
オムロンの一連のM&Aは、従来の機器メーカーから「機器+データ+サービス」を提供する総合的な健康ソリューション企業への変容を促すものだ。企業向け健診や特定保健指導の取得は、従業員の健康管理を巡る企業のニーズに対する即応力を高めるが、その実効性を左右するのは、取得した能力をいかに統合・運用し、個人情報やサービス品質の確保を両立させるかにある。