能登地震からの再出発、和倉温泉で初の建て替え再開
七尾市の和倉温泉にある老舗旅館「奥田屋」(創業約120年)が7月9日、建物を解体しての建て替えを経て営業を再開した。能登半島地震後に解体から建て替えた宿が営業を再開するのは和倉温泉で初めてとなり、地域の観光再生と復興の象徴的出来事と受け止められている。
奥田屋は従来の旅館営業形態から方針を変え、今回再開した施設は一棟貸しのヴィラ型宿4棟の構成とした。客室はいずれも露天風呂付きで、すべて源泉かけ流しの温泉を備えるという。運営は食事提供を行わない「泊食分離」の形態を採り、宿泊客には地元飲食店の利用を促すことで温泉街全体の回復につなげる狙いだ。
報道の取材に対して奥田屋の関係者は、建て替えを経た胸の内を語った。
「大事に守ってきたこの宿泊業と温泉をこれからもしっかり続けていきたいという思いで再建しましたんで、こういう形で新しい日を迎えることができたことを感謝です」
奥田屋は実は2023年に大規模改装を終えたばかりだったが、能登半島地震での被災によりその後に解体・建て替えを余儀なくされた。報道では、建て替えを決断した過程で廃業も検討したと伝えられているが、再建に踏み切り再出発の日を迎えた。
再開初日の状況と雇用面の動き
営業再開初日は満室となり、宿泊客からは「感動した」「近代的で落ち着く」といった声が聞かれたという。再スタートに伴い、かつて加賀屋グループで働いていた経験を持つスタッフも加わり、運営体制の強化を図っている点が報じられている。
和倉温泉の宿泊事業全体の状況については、地震後に数軒が休業や廃業を余儀なくされる中で、当時は19軒の宿が残る状況となり、今回の奥田屋再開で営業中の宿は10軒になったと伝えられている。旅館の再開は個別の経営判断に左右されるが、奥田屋の事例は周辺宿や飲食業に対する需給回復の契機になる可能性がある。
泊食分離の採用が示す街ぐるみ復興の姿
奥田屋が食事提供を行わない方針を選んだ背景には、温泉街内の飲食店や商店との連携を深め、宿泊者の消費を街中に広げることで地域経済全体を底上げする意図がある。地元の飲食店と連携することで、宿側は運営の負担を抑えつつ、観光客の街歩きを促進し、宿泊者の滞在中の消費を分散させる効果が期待される。
報道では宿の新しい滞在スタイルについて、宿泊者が「ゆっくり家に帰ってきたみたい」と語るなど、プライベート感を重視した評価も伝えられた。温泉の泉質や露天風呂付き客室といった体験価値が評価されれば、滞在時間の延伸や再訪意欲につながる可能性がある。
住民・観光面での波及効果と今後の課題
今回の再開は象徴的だが、温泉街全体の復興は宿の再建だけで完結しない。街全体のインフラ、被災建物の除去と再整備、労働力の確保、観光需要の回復と持続が求められる。奥田屋関係者も「和倉温泉全旅館そろってのスタートが本当のスタート」と語っており、街ぐるみでの復興に向けた協働の必要性を示している。
- 今回の再開が和倉温泉に与える経済的波及は、飲食・土産業など周辺事業の集客増につながる可能性がある。
- 一棟貸し形式と泊食分離により、宿泊者の消費行動が街中に広がる設計が意図されている。
- 今後は他宿の再開・建て替えの動きが、温泉街全体の復興度合いを左右する。
以下は和倉温泉の宿の推移を整理した表である(報道で示された数値に基づく)。
| 時点 | 宿の数(報道値) |
|---|---|
| 地震後の残存数 | 19軒 |
| 奥田屋再開後の営業中数 | 10軒 |
奥田屋の再開は、被災からの復興過程における重要な節目だ。再建を選んだ経営者の決断、地域内資源を生かした運営方針、そして宿泊者の受け止め方が、今後の和倉温泉の持続的な再興にどのようにつながるかは引き続き注目される。観光客の受け入れ再開が進む一方で、街全体での復旧・再整備、労働力確保、観光需要の安定化といった課題への対応が今後の焦点となるだろう。
(取材・文=木村 淳)