社会

非営利株式会社で問い直す「働く」とジェンダーの構造

非営利株式会社という組織形態を選んだ若き実践者の試みから、日本の「働く」仕組みと科学技術分野におけるジェンダー課題の再生産をどう食い止めるかを探る記事。理論と現場を結ぶ取り組みの意義と課題を検証する。

非営利株式会社で問い直す「働く」とジェンダーの構造
©イラスト AI生成 :森田 拓海/プレスリリースジェーピー

組織の仕組みが「再生産」する問題に向き合う

私たちが日々過ごす「働く」という場は、単に収入を得る場にとどまらず、価値観や慣行を再生産する装置でもある。特に科学技術分野では、研究やサービスの設計段階でジェンダーの視点が欠けると、結果として社会的に偏った成果が生まれ、それがさらに不平等を固定化してしまう。こうした問題意識のもとに、株式会社の形を取りながら定款で剰余金の配当を制限する“非営利株式会社”という選択をした団体の実践が注目を集めている。

今回取材した非営利株式会社ピロウは、科学技術分野におけるジェンダーギャップの「予防」を掲げ、多角的な協働プログラムを通じて研究者や起業家への支援を行っている。代表である江連千佳氏は、自らの経験を踏まえて組織形態の工夫が現場の実践にどう結びつくかを示そうとしている。

「ピロウの事業の軸になってるのは『科学技術によって再生産されるジェンダーギャップの予防』です。」

理論と実践をつなぐ「ジェンダード・イノベーション」

ピロウが重視する概念の一つがジェンダード・イノベーション(GI)だ。これは研究開発プロセスに性差や交差性の視点を組み込み、新しい発見や創造性を引き出す手法を指す。海外では研究のチェック項目として定着しつつあるが、日本ではまだ一般化していない。

  • 研究設計やデータ収集の段階での性差分析
  • 交差性(障害、年齢、人種等を含めた多面的な視点)の導入
  • 起業家や実装側への教育・伴走支援

江連氏は、GI導入のプロセスにおいて、領域を横断する対話や実践的な伴走を重視することを強調する。技術的なアルゴリズムを変えるだけでなく、そもそも「何を問題と定義するか」を問い直すことが重要だという指摘は、研究現場だけでなく企業のR&D部門や行政の政策立案にも示唆を与える。

「AIがジェンダーギャップが大きいデータを読み込み、それを使ってアウトプットを出してしまったり…結局いたちごっこになる。」

非営利株式会社という選択がもたらすもの

ピロウが株式会社でありながら非営利性を定款で担保する選択は、資金調達能力を保ちつつ組織の志向を長期的に維持するための工夫だ。営利追求を前提とする従来の企業形態では、短期的な収益圧力が目的や価値観を歪めるリスクがある。定款による制限は、事業の方向性を外部の資本圧力から守るための仕掛けとなる。

この形は以下のような利点と課題を併せ持つ。

利点課題
長期的なミッション維持資金調達の制約や投資家の限定
社会的信頼の獲得運営の透明性確保と持続性

現場の声から見える実装の現実

実務においては、研究者や開発者、起業家がGIの考え方をどのように日常的な判断に取り入れるかが鍵となる。ピロウのプログラムでは、具体的な調査支援や起業家向けの性被害予防の取り組みなど、実装側に向けた実務的支援が行われている。これは理念だけで終わらせず、現場での行動変容を促す点で評価できる。

一方で、国内の研究開発環境にGIを定着させるには、教育や評価制度の見直し、資金配分の優先付けなど制度面での変化も不可欠だ。個別の組織での成功が、分野横断的な実践に広がるためには、大学や公的研究機関、企業、資金提供者が連携してガイドラインや評価指標を取り入れていく必要がある。

示唆と今後の展望

働き方や組織形態を問い直す流れは、企業経営だけでなく社会制度全体に波及する可能性がある。非営利株式会社という選択は、従来の二分法(営利か非営利か)を超え、目的と資本の関係を再定義する試みとして注目に値する。特に科学技術が社会に与える影響が大きい現代において、開発プロセスにジェンダーや交差性の視点を組み込むことは、安全性や公平性の確保とも直結する。

今後注視すべき点は次のとおりだ。

  • GIを評価指標に組み込むための公的な枠組みづくり
  • 企業や研究機関での教育・研修の普及と効果検証
  • 資金調達とガバナンスのバランスを取る運営モデルの定着

こうした課題に向き合う取り組みは始まったばかりだが、日常的な業務の設計を少しずつ変えていくことで、技術や制度が持ちこたえてきた不均衡に風穴を開けることができる。非営利株式会社ピロウの実践は、その一つの具体例として、政策立案者や研究者、企業経営者に考える材料を提供している。

(取材・文=森田 拓海)

森田 拓海
森田 AI編集 社会担当記者 オンライン

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