燃料供給の遅延が致命的リスクに
7月末の熊本地震で車中避難中の高齢者が熱中症で死亡した事例は、災害時の燃料確保が生命線になりうることを改めて示した。北海度では本州と陸続きではない地理的制約から、災害発生時に燃料の輸送・補給が長期間停滞するおそれがある。取材したガソリンスタンド関係者は自社の備蓄強化や自家発電の導入で対応していると説明する一方、外部からの供給復旧には「4、5日〜1週間程度」かかる可能性があると指摘した。
「北海道まで船を発進させて持ってくるとしても4、5日、1週間程度かかりますということは、その1週間程度何も燃料を供給せずに待っている状態もありますので」
この見通しは、停電や物流寸断が重なった場合に冷房が使えない、車での避難生活が長期化するなど、熱中症リスクの増大を意味する。燃料がなければ自家発電の利用も限定され、支援物資や救援車両の移動にも影響が出る。
現場の取り組みと限界
胆振東部地震の教訓を契機に、ある道内のスタンドは燃料タンク容量を増やし、停電時の給油継続を可能にする自家発電設備を整備した。2018年の教訓として、震災時には給油を1台あたり制限して需要を抑えるなどの運用も行ったという。こうした個別事業者の努力は重要だが、地域全体を支えるには限界がある。
行政側では、札幌市の危機管理担当者が従来は主に冬季対策を重視してきた点を挙げ、近年の猛暑対策に準備が追い付いていない現状を認めている。担当者は個人備蓄の重要性を呼びかけ、各家庭が「最低でも3日程度」を自力で過ごせる備えを持つべきだと説明した。
住民が直面する具体的リスク
- 車中避難時の熱中症:エアコン使用不可の状態が死に直結する可能性。
- 医療・救援の遅延:燃料不足が救急車や支援車両の稼働に影響。
- 生活インフラの停滞:発電機を含む燃料依存設備が停止すると、冷暖房・通信などに支障。
また、長時間の車中滞在は「エコノミークラス症候群」など別の健康被害も招きやすく、搬送遅延や医療提供の不足が重なると複合的被害が拡大する恐れがある。
自治体と業界に求められる対策
今回の取材で示された論点を整理すると、行政・事業者・住民それぞれに課題がある。行政は気候変動に伴う暑熱リスクを災害対策に組み込む必要がある。具体的には:
- 公共の避難所での冷房設備・燃料の備蓄と運用ルールの整備
- 燃料供給が滞った場合の優先配給計画(医療機関・消防・避難所の優先度)
- 船舶・フェリー等を含む緊急輸送ルートの事前確保と訓練
業界側には、地域別の備蓄増強や停電時の給油継続に向けた設備投資と、非常時の情報共有体制構築が求められる。既に一部事業者はタンク増設や自家発電導入で対応しているが、こうした取り組みを広く支援するための国・道の補助や制度設計が欠かせない。
家庭でできる備えと行動指針
行政と事業者の努力が整うまで、住民側でも即効性のある準備が必要だ。夏季に特に注意すべきポイントは以下の通りだ。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 飲料水 | 1人1日3リットル×3日分を目安 |
| 燃料(車・発電機) | 満タン運用と携行缶での備蓄(法令や安全基準に従う) |
| 冷却グッズ | 携帯扇風機・氷嚢・冷感シート等 |
避難の際は車の燃料残量を常に確認し、可能であれば事前に満タンにすること。停電時にはエアコンを常用することは避けられるが、同時に窓を開けるなどで車内温度の上昇を抑える工夫が必要だ。長時間の車内滞在は血行障害のリスクもあるため、定期的に足を動かすなど健康管理を心掛けるべきだ。
今後の焦点と取材で見えた課題
今回の取材で明らかになったのは、個別事業者や一部自治体が対応を進めている一方で、北海道全体を視野に入れた包括的な燃料供給計画や猛暑対策が十分に整っているとは言えない点だ。地理的制約のため外部からの迅速な補給が期待しにくい島嶼・沿岸部や離島が特に脆弱であることは想像に難くない。
今後、道や市町村がどのように備蓄・優先配給・輸送ルート確保を進めるか、業界への支援策をどのように設計するかが地域の安全に直結する。住民は行政情報を注視しつつ、家庭での備蓄と避難行動の計画を早急に整えることが求められる。
(取材・文:佐藤 大地、プレスリリースジェーピー北海道担当)