AIで“香り”を設計し、職場の健康経営に組み込む試み
日本電気(NEC)は、人工知能(AI)を活用して職場環境向上を目指す新しい取り組みとして「AIアロマ」を開発し、社内で実証を行った。従来は調香師(センティングデザイナー)の経験と感性に依存してきた香りの設計を、AIと画像や空間情報などのデータ処理技術を組み合わせて再現・提案するのが狙いだ。
AIアロマでは、調香師が用いる研修資料や設置場所のパース(設計図)などをAIに取り込み、コンセプト作成や空間・利用シーンの分析を行う。NEC側は、こうした画像や空間情報を大量に処理する自社の技術を組み合わせることで、言語化・定量化が難しい「香り」や「気分」をデータとして扱い、調合の新たな発想につなげたとしている。
- AIが設計した香りは5種類。
- 社内実証には400人以上が参加した。
- アンケートでは半数以上が「業務パフォーマンスの向上」を実感、8割が「今後も使いたい」と回答した。
社内実証の方法と初期結果
実証では、社員のスケジュールやバイタル情報をNECの独自AIで解析し、その時点の状態に合わせてAIが創出した5種類の香りの中からおすすめをチャット形式で提示する仕組みを採用した。実証の初日から多くの社員が体験し、利用者からは「頭がすっきりした」「集中力が高まった」といった手応えが集まったという。
「アロマなら、これまで健康施策に興味を持たなかった若い世代にも広がる期待をもちました」
NECの人事・ウェルビーイング担当は、AIアロマが従来の健康施策で興味を持ちにくかった層にも訴求し得る点を評価している。社内の健康経営推進担当も、AIの提案が従業員の気づきや日常的な活用につながる可能性に期待を示した。
課題と今後の展望
一方で実証を通じて、香りの好みの多様性や継続利用に伴う課題も顕在化したと報告されている。NECはよりパーソナライズされたレコメンド機能の導入や、ポップアップによるリマインド、自動化の仕組みを検討するとしており、社内展開を段階的に進める方針だ。
また、NECは自社の行動規範「Code of Values」をテーマにした5つの香りを調合したとし、今秋には社内売店でAIアロマのエアミストを販売予定であることも明らかにした。これにより自宅や外出先での利用も想定している。
| 項目 | 数値・状況 |
|---|---|
| 開発した香りの数 | 5種類 |
| 社内実証参加者 | 400人以上 |
| 業務パフォーマンス向上を実感 | 半数以上 |
| 今後も使いたいと回答 | 8割 |
テクノロジーの応用領域拡大と健康経営の変化
今回の実証は、AIが単なる業務効率化から離れ、「体験」や「感性」に関わる領域へ進出する一例だ。NECは従業員数が10万人を超えるグループ規模を念頭に、テクノロジーを用いて多様な働き方や環境に施策を届ける必要性を指摘している。AIによる香りの提案は、個々の生理状態やスケジュールに即した“ちょっとした寄り添い”を可能にし得るが、プライバシー配慮や長期的な効果の検証など、実運用に向けた検討事項は残る。
NECは今後、今回得られた知見をもとに、レコメンド精度の向上や自動化機能の実装を進めるとともに、社内外での利用拡大を目指すと述べている。テクノロジーが職場環境や健康施策をどこまで変え得るか、今回の取り組みは国内企業の実務的応用のモデルケースとして注目される。
NECが公開した社内実証の結果は、AIを用いた健康経営施策が短期的な満足を超えて継続的な効果を発揮するかどうかを見極めるための材料を提供している。今後は、利用者の多様性を踏まえた個別化、データ利活用とプライバシーの両立、そして効果測定の長期化が課題となるだろう。