県内の実情に即した地域医療維持を最優先に
長崎県医師会は6月14日、釣船崇仁氏(69)が新会長に就任した。釣船氏は県内の医療機関が直面する経営課題や人材確保の難しさ、地域差のある医療供給体制を踏まえ、行政と連携しながら新たな地域医療構想に取り組む姿勢を示した。
釣船会長は、直近の診療報酬改定について「プラス改定といわれるが、物価や人件費の上昇に追いついていない」と述べ、病院や診療所の赤字経営が続いている現状を改めて指摘した。コロナ禍以降、患者一人当たりの受診回数が減少していることも収入面での圧迫要因になっているという。
こうした経営環境の厳しさは、地域の医療提供能力に直結する。特に開業医の高齢化と後継者不足については、島嶼部や周辺部での閉院が増加しており、地域住民の受診機会低下や救急医療への影響が懸念される。医療事務員など現場を支える職員の確保も困難を極めており、診療報酬の範囲内で賃金を引き上げることに限界がある点を重ねて訴えた。
「長崎の医療・福祉・介護をどうしていくかという問題意識は同じ。真にノーサイドの精神で、県民のためになることを行政と進めていかなければならない。」
釣船氏は、2040年を見据えた新たな地域医療構想の議論に際して、データ上の「医師多数県」という評価と現場の実情との乖離を問題視した。都市部と周辺部、離島を同一の枠組みで評価・再編することは困難であり、個々の地域の実情を踏まえた対応が必要だと強調した。
DXと連携で業務負担を軽減する試み
現場の業務負担軽減策として、電子カルテや人工知能(AI)などの導入が挙げられた。一方で、開業医の高齢化に伴い新たなシステム導入は容易ではないとの見方も示した。こうした事情を踏まえ、釣船氏は日本医師会が提案するような機能を絞った共通の簡易版システムの活用が現実的な選択肢になり得ると述べた。
導入コストや運用負担を抑えつつ、複数医療機関での情報共有や業務効率化を図ることができれば、医師や看護職員の労働時間短縮や事務作業の軽減につながる可能性がある。だが、どの程度の機能を標準化するかや、導入に際しての初期投資、運用支援の体制構築などは今後の課題だ。
住民が受ける影響と実務的な視点
診療所や中堅病院での経営悪化や閉院が進めば、受診までの時間や移動距離が増えることになり、特に高齢者や交通手段が限られる住民の不便が増す。救急の搬送先の偏りや待ち時間の延長、通院継続が困難になることによる慢性疾患管理の悪化といった具体的な影響が想定される。
住民が日常的にできる対策としては、かかりつけ医の所在確認、健診や予防接種などの情報把握、通院困難時の地域の支援制度の利用検討などが挙げられる。行政や自治体は、医療機関の閉院情報や代替医療機関の案内、移動支援サービスの整備など実務的な支援策の周知を急ぐ必要がある。
- 経営悪化が続く医療機関の増加は、受診環境悪化につながる。
- 島嶼部や周辺部では後継者不在による閉院が深刻化している。
- DX導入は業務軽減に資するが、導入支援が不可欠。
今後の展望と行政との関係
釣船新会長は、知事選の経緯を踏まえつつも、県政との協働を重視する姿勢を示した。対立や距離感にとらわれず、具体的な課題解決のために着実に対話を進める方針だ。医師会としては、地域ごとの実情を示すデータ提示や現場の声を踏まえた提言を通じて、行政との協働態勢を強化していく見込みである。
地域医療構想の再編は、医療機能の分化や病院間連携の在り方を左右する。釣船氏は、標準的なモデルをそのまま周辺部や離島に適用することの危険性を繰り返し指摘しており、地域単位での柔軟な設計と、必要な医療人材や機器配置を確保するための財政的・制度的支援が求められると述べた。
| 課題 | 示された要点 |
|---|---|
| 診療報酬改定 | 物価・人件費上昇に追いつかず、経営悪化が続く |
| 人材確保 | 開業医の高齢化・後継者不足、医療事務員の確保困難 |
| デジタル化 | 導入の必要性。ただし高齢開業医への負担が課題 |
長崎県内の住民にとって今回の会長交代は、医療政策の現場での発言力がどう行政対応に反映されるかを見る重要な局面となる。診療所の減少や救急受け入れ体制の逼迫は、日常の医療アクセスに直結するため、県と医師会、自治体、住民が協力して具体策を詰める必要がある。
県内の医療機関や住民は、医療機関の診療時間や休診・閉院情報、かかりつけ医の有無などを日頃から確認しておくことが望ましい。行政には、閉院が予想される地域での代替体制や交通支援、DX導入支援の具体化が求められる。今後、医師会と県がどのような連携の枠組みを構築するかが、地域医療の安定化の鍵を握るだろう。
(取材・文/藤原 楓)