学校登山の現況と背景
7月21日、北アルプス・燕岳(標高2763メートル)近くの燕山荘。消灯後の山小屋で、安曇野市立穂高西中学校の教員や山岳ガイド、医療関係者が夜遅くまで生徒の体調や下山計画を確認していた。翌日の行程を巡る指示や水分量の調整など、入念な打ち合わせが行われた現場には、学校登山の安全確保にかける実務が凝縮されている。
長野県は山岳文化が深く根付く地域だが、学校登山の実施状況は大きく変化している。県山岳総合センターなどのまとめによれば、2011年度までは実施を計画する学校が9割を超えていた一方、今年度は179校中45校、実施率は25.1%にまで低下した。
なぜ減ったのか――現場の声
実施校減少の理由として、記事は次の点を挙げている。教員の負担増、事故やけがに対する管理責任の厳格化、コロナ禍での制約の継続などだ。教員側は安全管理や準備にかかる時間と労力を負担と感じる場面が多く、宿泊を伴う登山から日帰りに切り替える学校も増えている。
一方で、穂高西中では復活に向けた取り組みが進んだ。市教育委員会が1クラスにガイド2人を配するなど手厚い支援を行い、7年ぶりの燕岳登山を実施した。実際の山行では生徒が靴のソール剥がれや下山中の足の痛みなどのトラブルに見舞われたが、ガイドを中心とした対応で無事に乗り切った。
支援策と地域の取り組み
県内では学校登山を側面から支える仕組みづくりも進む。県山岳総合センターは教員の負担軽減を目的に、県山岳協会と連携して学校登山に同行するボランティアの橋渡しを始めた。昨年度の登録は22人、今年度は9校から派遣要請があった。
また、NPO法人「信州まつもと山岳ガイド協会やまたみ」は、学校側が求めるガイド人数を満たせない場合に、最低1クラス分のガイドを無償で派遣する応援制度を設けている。この制度は、民間のガイド団体が伝統的な学校行事を守ろうとする具体的な取り組みとして注目される。
教育的意義と残された課題
関係者は学校登山の教育的価値を強調する。山岳総合センターの傘木靖所長は、郷土愛や自己肯定感、思いやりの心を育む点を指摘し、継続と復活に向けた支援継続の必要性を訴える。穂高西中の宮沢校長も、学力とは別に感性や人生の支えとなる体験の重要性を語った。
ただし、現場には解決すべき課題が残る。教員の業務負担をどう軽くするか、安全基準や責任の所在をどう整理するか、天候変動や遭難リスクにどう対応するかといった点は、各校・教育委員会・地域団体が連携してルールと支援体制を整え続ける必要がある。
住民・保護者への影響と実務的注意点
学校登山が減ることは、子どもたちの体験機会の喪失を意味する。保護者にとっては、学校行事が教育カリキュラムの一部として再評価され、安全対策が明確化されることを求める声が増えるだろう。また、実施する場合には以下のような実務的事項が重要になる。
- 学校側は引率体制と外部ガイドの配置、医療体制の整備を明確にすること。
- 保護者は事前説明会の内容、持ち物・装備基準、水分補給や健康管理の指示を確認すること。
- 地域団体やNPOは、専門家と連携したガイド派遣やボランティア支援の情報を学校へ積極的に提供すること。
結び――伝統をどう受け継ぐか
長野県に根付く学校登山は、単なる行事ではなく郷土の自然を体感し、仲間との協働や困難を乗り越える教育的資源だ。実施校が2割台に落ち込んだ現状は、伝統の継承と安全確保を両立させるための制度設計が急がれることを示している。現場の工夫と地域の支援が積み重なれば、復活の糸口は見えてくる。今後は教育委員会と学校、ガイドやNPOが連携し、保護者の理解を得ながら安全基準と支援体制をさらに整備することが求められる。
「学校登山は郷土愛や自己肯定感、思いやりの心などを育む。実施継続のため支援を続けたい」――県山岳総合センター・傘木靖所長
| 項目 | 数値・状況 |
|---|---|
| 今年度の実施校 | 179校中45校(25.1%) |
| 燕岳の標高 | 2763メートル |
| 中房温泉出発の標高 | 約1460メートル |
| ボランティア登録(昨年度) | 22人(派遣要請9校) |