月1回の外来で町内完結を目指す試行
岡山大学は、鳥取県中部医師会立三朝温泉病院、三朝町、鳥取県中部医師会、鳥取県と連携して、2026年10月8日から三朝温泉病院に耳鼻咽喉科外来を新設する。外来は原則として毎月第1木曜日に開設され、まずは6か月間の試行として運用される予定だ。初回診療は10月8日に行われる。
三朝町は山間部に位置し、町内に耳鼻咽喉科や補聴器販売店がないため、住民は診療や補聴器調整のために町外へ出向く必要がある。高齢者を中心に移動の負担や継続的な通院が障壁となっており、今回の取り組みはこうした課題に応えるものだ。
「こうした地域特有の課題を強く認識しました。」
この言葉は、岡山大学病院聴覚支援センターの片岡祐子准教授(特任)が、地域での住民向け講演を通じて確認した現場の状況を端的に示している。講演には約70人の地域住民が参加し、地域のニーズの高さをうかがわせた。
既存資源を活用した小規模モデル
診療は既存の施設と可搬型機器を組み合わせる方式で実施する。岡山大学側が携行する可搬型聴力検査機器やヘッドライトを用い、三朝町が保有する耳鏡や鼻鏡も活用することで初期投資を抑えた小規模なモデルを試行する。さらに、Audika株式会社の認定補聴器技能者が診療に連携し、補聴器の選択・試聴・調整・アフターケアにあたる。
本試行では医学的評価から補聴器導入、調整、その後の継続支援までを町内で受けられる体制を整えることを目標とする。6か月後に受診者数や住民ニーズ、支援の成果を評価し、継続・拡充の可否を判断する計画だ。十分な需要が確認されれば内視鏡など診療機器や診療内容の段階的な拡充も検討される。
住民にとっての具体的な影響
- 通院負担の軽減:月1回でも町内で耳鼻咽喉科診療が受けられることで、町外への往復時間や交通費、介助者の手配など負担が減る。
- 早期発見・対応の可能性:定期的な検診や相談窓口ができることで、難聴や耳の病気の早期発見につながり、重症化予防が期待される。
- 補聴器の継続支援:補聴器選定後の微調整や定期的なフォローアップが町内で受けられるため、装用継続率や満足度の向上が見込まれる。
自治体・医療機関の役割と課題
今回の取り組みは、地域の既存資源と外部の専門人材を組み合わせる点に特徴がある。三朝温泉病院の診療空間や町が保有する診療器具を活用し、大学病院の専門医と補聴器技能者が移動して診療を行うことで、設備投資を抑えつつサービスを提供する仕組みだ。
しかし運用段階ではいくつかの現実的な課題が想定される。例として、以下が挙げられる。
- 外来が月1回のため、急な症状や調整が必要になった場合の対応策が必要になる点。
- 初期段階では可搬機器で対応するため、内視鏡検査等の詳細診断を要する患者は再診断のために町外を案内せざるを得ない可能性。
- 継続的な運営資金や人員確保、評価に基づく拡充のための意思決定プロセスの確立。
評価と今後の展開
岡山大学は本取り組みを、文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」の枠組みの一環として位置づけている。大学側は試行の結果をデータとして収集・分析し、地域の実情に応じた聴覚医療モデルの有用性を検証する考えだ。評価項目には受診者数、住民ニーズ、診療・支援による成果が含まれる。
非都市部での医療提供モデルとして成功すれば、同様の課題を抱える他地域への展開が見込まれる。特に高齢化と医療資源不足が進む地方では、地域保有資源と外部専門性を組み合わせたスモールスタートの手法は現実的な選択肢となる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開始日 | 2026年10月8日(初回) |
| 頻度 | 原則:毎月第1木曜日 |
| 試行期間 | 6か月 |
| 主な担当 | 岡山大学(片岡祐子准教授)、Audikaの認定補聴器技能者、三朝温泉病院 |
住民に向けた実用情報
外来を利用したい住民は、まず三朝温泉病院へ問い合わせるのが基本となる。診療は予約制となる可能性が高く、事前の受診相談や聴力に関する簡易相談会の開催なども想定されるため、最新の案内は三朝町と三朝温泉病院、岡山大学の発表情報で確認することが重要だ。
また、補聴器に関する初期費用や補助制度の有無、アフターケアの体制については、補聴器技能者と相談のうえ実際の導入を検討する必要がある。自治体の高齢者支援制度や福祉用具貸与、補助金制度の適用可否も併せて問い合わせてほしい。
今回の試行は、まずは「町内で医療の入口から補聴支援までを完結させる」ことを狙いとしている。住民の受診行動や満足度がどのように変化するかが、今後の継続・拡充の鍵となる。
(取材・鳥取県担当記者 長谷川 豊)