見て、触れて、考える—夏休みに合わせた全17企画
水戸市緑町にある茨城県立歴史館で、子どもたちが歴史や民俗、考古学に親しめる体験型展示「たいけん・たんけん歴史館」が公開されている。展示は9月27日まで。縄文期の装束を着る撮影体験、くずし字の読解に挑むコーナー、土器や瓦屋根を組み上げるパズルなど、多様な学びを用意し、会場には17の体験企画が並ぶ。夏休みの自由研究や家族の外出先として、教育的価値と楽しさを両立したプログラム構成が特徴だ。
主役の一つは、今回のために制作された前方後円墳型の大型ステージ。縦5メートル、横3.75メートルのスケールで、県内小美玉市・舟塚古墳から出土した埴輪のレプリカ(実物の約5分の3サイズ)を自由に配置できる。出土品の配置や向きが祭祀や権力表象とどう関わるかを、言葉に頼らず直感的に試行できるのが利点だ。ほかにも、実物の土器片に画仙紙を重ね、色鉛筆でこすって文様を写し取る「拓本」体験、立体印刷を用いた変体仮名のクイズなど、触覚と視覚を総動員して理解を深める工夫が光る。
妖怪行列を“タッチで探検”—美術と民俗への入口
県ゆかりの文化資源へのアクセスも幅広い。県古河市出身の絵師・河鍋暁斎(1831〜1889)が描いた折本「暁斎百鬼画談」をデジタル化し、画面上で気になる妖怪に触れると解説の閲覧や鳴き声の再生ができるインタラクティブ展示を導入。子どもが興味を持ちやすい題材から、絵画史・民俗信仰へ自然に関心が広がる設計だ。また、江戸時代の「常陸名所図屛風」レプリカでは、袋田の滝、鹿島神宮、筑波山など、県内の象徴的風景がどのように描かれてきたかを俯瞰でき、郷土理解の素材としても活用しやすい。
同館が狙うのは「知識の有無を問わず楽しめる」体験の入口づくりだ。展示の企画意図について、館の研究者は次のように語る。
一緒に来た人と会話を楽しみながら、自分なりの発見をしてほしい。興味を深める入り口になれば
一方、来場した小学生からは、麻でできた縄文服を着て「ちくちくした」と実感を伴う感想が出るなど、教材や図版では伝わりにくい手触り・重量感・着心地といった身体感覚から古代を捉え直すきっかけが生まれている。家族で訪れた来館者からは、埴輪の配置遊びを通じて家族間の会話が弾んだとの声もあった。
地域資源を横断して結ぶ—学びの導線
今回の展示は、単一のテーマに閉じず、考古・美術・文字文化・名所絵といった複数領域に橋を架けている。県央の水戸から県南・県北・鹿行にまたがる名所や出土品、そして県西出身の絵師の業績を一つの空間で結ぶことで、子どもたちは「自分の住む県の広がり」を体験を通じて描ける。とりわけ埴輪のレプリカは、古墳の形・空間・配置という三要素を同時に扱える教材であり、見学主体の展示では得にくい因果関係の推測や仮説づくりを促す。変体仮名の立体印刷クイズは、視覚だけでなく指先の感覚を使うため、読みの手掛かりを増やし、文字文化の理解に段差をつくらない工夫と言える。
| 主な体験 | ポイント |
|---|---|
| 前方後円墳型ステージ | 舟塚古墳出土埴輪レプリカを自由配置(5m×3.75m) |
| 「暁斎百鬼画談」デジタル化 | 妖怪をタッチして解説・鳴き声を楽しむ |
| 土器片の拓本 | 文様をこすり出しで写し取り、制作技法に触れる |
| 変体仮名クイズ | 立体印刷で見て触れて読む |
| 常陸名所図屛風レプリカ | 袋田の滝・鹿島神宮・筑波山など郷土の名所を俯瞰 |
家族での滞在を想定—効率よく回るコツ
体験型展示は一つ一つに時間を要するため、来場時は余裕のある滞在計画が望ましい。とくに埴輪配置のステージや拓本は、子どもの発想が広がりやすく、試行錯誤の時間が学びそのものとなる。会話を促す視点として、次のような問い掛けが役立つ。
- 埴輪の向きを変えると、全体の見え方や役割はどう変わるか
- 拓本で写し出した文様は、どんな道具や手の動きで作られたと想像できるか
- 妖怪の姿や鳴き声から、当時の暮らしや自然観にどんな連想が生まれるか
展示は「知識がなくても楽しめる」とされる一方、子どもが自ら説明役になって家族に語り直すことで、理解が定着しやすい。写真撮影が可能なコーナー(縄文服の記念撮影など)は、体験の記録と振り返りにもつながる。
会期と実用情報—長期休暇の計画に
会期は9月27日まで。夏休みを含む長期間の開催で、混雑を避けた平日の利用や、複数回に分けた来場計画も立てやすい。展示内容は考古・美術・文字文化・名所絵と幅があり、学齢や興味関心に応じて重点を置くコーナーを選べる。各体験は手で触れ、並べ、こすり出し、読み解くプロセスが中心で、五感を使った学びが柱。準備・片付けの時間も見込みつつ、無理のないペース配分が望ましい。
県立歴史館の「たいけん・たんけん歴史館」は、郷土の歴史を身体感覚から捉え直す実践の場だ。舟塚古墳の埴輪に触れ、暁斎の筆致をデジタルで追い、古文書の文字に指先で触れる体験は、教科書の知識を地域の具体へとつなぐ。学びの入口を広げるこの取り組みは、家族の会話を誘い、子どもの探究心を支える足場になる。