被災から金沢での再起──古民家で味わう“命の一杯”
能登半島地震で被災した高畠正成さんが、金沢市郊外の古民家に場を得て、平飼いの卵を主役にした卵かけご飯専門店「すずらん」を始めた。営業は昼のみ、土・日・月・火曜で1日10食の完全予約制という限定的な形態だが、地元の農宿と連携しながら地域資源を活かす取り組みとして注目されている。
店は築50年の古民家を改修した農家民宿「ととのや」の一角に設けられ、提供される一膳には高畠さんが近隣で平飼いする約300羽の鶏が産む新鮮な卵が使われる。養鶏場から店までは約700メートルと近く、産みたての卵をすぐに届けられるのが特徴だ。
セットの構成と食べ方、付帯体験
代表的なメニューは「平飼い養鶏の卵かけご飯セット」(価格は1620円)。自然栽培の米を羽釜で炊いたご飯に、一般的な茶色い卵と、アローカナなどの青みがかった卵を含めた4個が添えられる。合わせて漬物や野菜、味噌汁など地元の食材を使った小鉢が並び、食材の背景を伝える構成になっている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な卵の種類 | 茶色の卵、アローカナの青みがかった卵(計4個) |
| ご飯 | 自然栽培米(羽釜で炊飯) |
| 価格例 | 卵かけご飯セット:1620円、満足セット(プリン・ドリンク付):2000円 |
高畠さんは、卵そのものの味を楽しんでもらうために、まずは醤油をかける前の味わいを試すことを勧めている。また、卵の風味を引き立てる食べ方として塩を少量振る方法を推奨している。
循環を体験する食育の場
店は単なる食事処に留まらず、鶏と食べもののつながりを体感できる仕掛けを用意している。食後の卵殻を庭先の鶏に与えることができ、殻は鶏のカルシウム補給として有効に使われる。高畠さんは鶏糞を肥料にして野菜を育て、余剰の食品廃材なども飼料に回すなど、資源の循環を意識した生産・提供を行っている。
「鶏の糞を肥料にして野菜を作っていますし、本来捨てられていたおからなどをニワトリのエサにしています。このカラもニワトリにとって重要な栄養源ですので、ゴミを出すことなく循環できることも知ってほしいです」
こうした取り組みは来訪者に対する食育の機会であり、地域の里山資源を生かした持続可能な営みを示すモデルとなる可能性がある。
地域への波及と復興へのメッセージ
高畠さんは元々珠洲市で養鶏を営んでいたが、地震被害を受けた後に金沢で新たな場を見つけた。店名「すずらん」には故郷・奥能登への思いが込められ、将来的に奥能登での再展開を諦めていないと述べている。金沢での活動は、被災地出身者が地域の支援や縁によって再起する事例として、同じような環境にある人々にとって励みとなるだろう。
地元の農宿との連携は、観光面でも意味を持つ。森本駅から車で約10分の立地というアクセス性を活かし、帰省客や観光客が里山での食体験を求めて訪れる動きが期待される。実際、開業にあたっては地元住民や宿の案内で地域内の人的ネットワークが活用されており、観光資源としての可能性も示唆されている。
利用を考える住民・来訪者への実用情報
- 営業日:土・日・月・火の昼のみ(完全予約制、1日10食)
- 所在地の目安:金沢市北部、森本駅から車で約10分
- 提供例:卵かけご飯セット(1620円)、満足セット(プリン・ドリンク付、2000円)
- 持ち帰り:余った卵は専用パックで持ち帰り可能
訪問を検討する際は、事前に予約と営業日の確認をすることを勧める。限定数のため、当日の飛び込みでは入店できない場合がある。特に帰省シーズンや週末は予約が取りにくくなる可能性が高い。
地域の視点から見ると、この店の存在は複数の意義を持つ。まず一次産業の再生と継続を示す実例であり、次に消費者が生産者と直接つながる機会を提供する場である。また、循環型の取り組みは食の安全・環境負荷低減といった観点からも地域にとって価値がある。
一方で限定的な供給規模や営業日、予約制といった運営形態は、需要と供給のバランス確保、来訪者の受け入れ体制の整備など課題も示している。今後、来訪者増に対応するための動線整備や周辺交通、周辺住民との調整が求められるだろう。
被災経験を持つ生産者が地元と連携して行う取り組みは、復興と地域振興が結びつく好例だ。金沢で始まった一杯は、遠く離れた故郷への思いとともに、里山資源を活かす新たな暮らし方を示す試みとして注目に値する。