学びは“手段”を越えて組織の変革に直結する
AIやDXの急速な進化、サステナビリティ関連の制度変化により、ビジネスパーソンに求められる知識やスキルは刻一刻と更新されている。東京都市大学が提供するリカレントプログラムは、そうした時代の課題に対して、大学教員による理論と第一線の実務家による実践知を組み合わせることで、働きながら学ぶ社会人に新たな学びを届けようとしている。
受講者の一人である日本政策金融公庫の戸崎泰史氏は、DX・生成AIの推進を担当する立場から本プログラムを選んだ理由として、実務家と学術のバランスを挙げる。戸崎氏は、社内のITリテラシー向上施策の経験と照らし合わせ、体系的な理論学習と現場の具体的手法が同時に得られる点に魅力を感じたという。
「分からないことが分かる」。そこにこそ、学び続ける意味があるのではないでしょうか。
この言葉は、プログラムを通して得られる“学びの価値”を端的に表している。学びによって自分が理解していない領域を把握できるようになること、そしてそのギャップを埋めることで実務の精度が高まるという循環だ。
現場の課題に即したカリキュラムの効用
戸崎氏が特に有用だとしたのは、組織変革や少人数開発でのSaaS活用、業務プロセスの共通化・仕組み化に関する講義だ。セキュリティや暗号技術、量子コンピューターの動向についての講義も、単なる技術理解を越え、背景や将来の変化を捉えるために有益だったと語る。こうした学びは、戸崎氏の職場で進行中の複数事業にまたがる業務刷新プロジェクトに直接結び付いている。
同様に、サステナビリティ経営基礎コースを受講した株式会社ニッスイの吉田桂子氏も、執行役員としてサステナビリティ推進を担う立場から本プログラムを利用した。吉田氏は、制度や開示ルールが刻々と変わる領域で、基礎固めと海外制度の理解が不可欠だと述べる。eラーニングだけでは得られない体系的な知識と実務家の視点が、現場での即戦力化につながるという実感を得ている。
学び直しが組織にもたらす影響
受講者の証言からは、単に個人のスキルが向上するだけではないという共通した実感が浮かぶ。学び直しは組織文化や業務の設計に影響を与え、変革を促進する触媒となる。戸崎氏が指摘する最大の壁は、人の心理的抵抗だ。ツールや技術は手段であり、本当に重要なのはそれを用いて業務や働き方をどう変えるかという点だとする。
- 体系的な理論と現場の実践知を並行して学ぶことの価値
- 学びが業務プロセス刷新や組織変革に直接結び付く事例
- 技術理解を深めることが将来変化への備えとなる点
これらは、個々の受講者の話でありながら、広く企業や行政の人材育成戦略に示唆を与える。例えば、社内でDX推進やサステナビリティ対応を進める担当者が、外部の学びを組織横断的なプロジェクトと接続することで、知識の定着と実装が加速する可能性がある。
データとしての構成要素
| 受講コース | 受講者・肩書 |
|---|---|
| DX人材育成コース | 戸崎泰史(日本政策金融公庫 DX・業務改革推進室 室長) |
| サステナビリティ経営基礎コース | 吉田桂子(株式会社ニッスイ 執行役員) |
上の表は今回の取材対象となった二つのコースと受講者の関係を示す。いずれも実務責任を担う立場であり、学びが直ちに職務に還元される点が特徴だ。
背景と今後の示唆
社会全体で変化の速度が増す中、学び直しは単なる自己啓発に留まらない。制度対応や技術動向をめぐる知の更新は、事業の継続性や競争力に直結する。職場での実務課題に直結するカリキュラム設計、実務家と学者の協働、そして受講後の現場実装を支える仕組みづくり──これらが揃うことで、学び直しは組織の変革力を高める。
一方で、学びの効果を最大化するには企業側の支援も不可欠だ。受講のための時間的余地、学んだ知識を試すための実践機会、そして学びの成果を評価に結び付ける仕組みが求められる。戸崎氏のいう「まずは一歩踏み出す」という言葉は、個人の勇気を促すと同時に、組織が学びのための環境整備を行う責任をも示唆している。
今後、リカレント教育の広がりは、単にスキルのアップデートにとどまらず、働き方や組織設計、産業構造の変化へと波及していくだろう。制度・施策の立案や企業の人材戦略に携わる者は、この潮流を踏まえた長期的な視点での投資を検討する必要がある。
現場の実務家が語る学びの手触りは、生々しい実務課題と学問的な整理が交差する点に強い説得力がある。働きながら学ぶことの価値をどう制度化し、組織的に支援していくか。今、取り組み方次第で将来の差が生まれる局面にある。