現場の実情から始まった改革
製造業の現場で進むデジタルトランスフォーメーション(DX)。イトーキグループの主要子会社で研究施設向け装置を手掛ける株式会社ダルトン(本社:東京都中央区)では、現場の積み重ねられた知見を生かしつつ、紙ベースの業務や属人化を解消するための取り組みが進められている。生産統括部長の柴山昭宏が現場で感じた違和感と危機感が、変革の出発点となった。
ダルトンは特注品が多い事業特性を持つ。設計は規格図を起点に顧客要望に応じたカスタマイズを行うが、過去の図面や組立マニュアルの管理が分散し、紙で残る資料も多かった。設計者であっても目的の図面に辿り着くのに時間を要し、図面探しに一人当たり月平均10時間を費やしていた点は、現場の生産性に直接的な影響を与えていた。
「何なんだ、これは!」
柴山は2023年に訪れたDXソリューション展示会で、AIを利用した図面検索や外観検査AI、AR作業ナビゲーション、AGVなど最先端ツールを目の当たりにし、現場の遅れを強く意識したという。だが同時に、展示会で得た技術的可能性を一人で推進する限界も痛感した。
現場を巻き込む戦略と実行
柴山は単独で変革を進めるのではなく、まずは現場の当事者たちを変革の仲間にする方針を採った。翌年には現場の従業員5名、さらにその翌年には10名を展示会へ同行させ、現場自らが最新技術に触れる機会を増やした。こうした取り組みは、現場の受容性を高めるための重要なステップとなった。
展示会で接触した企業から提案を受け、類似図面を瞬時に呼び出す図面データ活用ツールの導入検討を進める。生産設計部の鈴木啓介がツールを評価した際は、現場からも強い期待が示され、柴山の推進力を後押しした。
「遅れているからこそ、大きく変われる」
柴山は現場の「仲間」を得て、変革の泥臭い実務に踏み込んでいくことを選んだ。展示会での発見を単なる情報収集で終わらせず、現場が必要とするツールを実際に導入・評価するフェーズに移行した点が特徴である。
取り組みが示す示唆と課題
ダルトンの事例は、現場主導型DXの有効性を示す一方で、典型的な課題も浮かび上がらせる。
- 技術導入だけではなく、現場の意思形成が不可欠であること
- 情報の可視化・資産化が属人化解消と業務効率化に直結すること
- 変革を進めるには現場メンバーの“触れる機会”と“成功体験”の創出が重要であること
特注製品が多い事業モデルでは、ロジスティクスや在庫管理のシステム化が特に難しい。ダルトンでは、積み込みや配車、在庫管理の多くが紙ベースで、熟練者の「勘と経験」に頼る業務が残っていた。このような業務をどうデジタルで再設計して運用に落とし込むかが今後の鍵となる。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 2011 | ダルトンがイトーキの連結対象子会社となる |
| 2015 | 柴山が静岡の生産拠点へ異動、現場に参画 |
| 2023 | 柴山がDX展示会を訪問、変革の必要性を自覚 |
今後に向けた視点
ダルトンの取り組みは、全国の中堅・中小製造業が直面する普遍的な課題を映している。技術自体の導入は容易になりつつあるが、それを現場業務に定着させるための組織的仕掛けと人材の巻き込みが不可欠だ。ダルトンのように現場の当事者を早期に参加させ、実際に技術を触らせて評価と改善を繰り返す手法は、他社にとっても参考になるはずだ。
現場の知見を資産化し、業務の標準化と可視化を進めることは、単なる効率化を超えて、製品品質の安定化やノウハウ継承、さらには新たな事業機会の創出にもつながる。ダルトンの事例が示すのは、変革は現場からしか始まらないという現実である。
「柴山さん、このシステム、本当にすごいんです! 過去の類似図面や見積データが一瞬で呼び出せる。これなら図面を探す時間も劇的に減ります。僕たちが探していたのはこれですよ!」
この現場の声は、DX推進における最も重要な合図でもある。技術が現場の必需となる瞬間こそ、DXが真に機能する転換点だ。ダルトンはそこを目指して、小さな成功を積み重ねている。