FC東京が描く「スポーツによる街づくり」と評価手法
東京都を本拠にするプロサッカークラブ、FC東京は7月30日にラウンドテーブルとトークセッションを開催し、クラブの社会的・環境的取り組みを体系化した新たな方針を対外的に示した。白井英介代表取締役社長はクラブの創設以来の理念を振り返りつつ、勝利以外の価値を生み出すことへの強い意志を語った。
「私たちの暮らしと未来につながるゴールを」
同クラブはこの言葉をソーシャルステートメントとして掲げ、活動を三つの柱に整理した。これに基づき具体的な重点項目(マテリアリティ)を設定し、これまで個別に見えていた取組をクラブ全体の一貫した物語に落とし込む試みを進めている。
説明に立ったサステナビリティ推進部の須藤義徳部長は、これまで各種事業が個別に認識されがちだった点を課題として指摘。今後は方針を明確に示し、社会的価値を定量的に把握して改善サイクルを回すことを目指すと述べた。
三つの柱と重点項目、環境方針
クラブが提示した柱と重点項目、環境方針は次の通りで、会場では複数の具体事例も紹介された。
- 三つの柱: 地域コミュニティ, 人, 環境
- 人の領域の重点: 「自己成長」「健康」
- 地域コミュニティの重点: 「DE&I(多様性・包摂)」と「地域活性」
- 環境領域の方針: クライメートポジティブ、資源循環100%、ネイチャーポジティブ、持続可能な調達
| テーマ | 具体例/狙い |
|---|---|
| クライメートポジティブ | 味の素スタジアムと協力した再生可能エネルギー推進、観戦時の移動に伴うCO2削減 |
| 資源循環 | 海洋ごみ対策などのLTO活動(海にゴミは行かせない) |
| 地域共創 | 沿線事業者と連携した住民参加型プログラムの実施 |
地域パートナーとの連携と定量評価の導入
後半では京王電鉄との包括連携協定に基づく事例が紹介された。日笠正昭マネジャーは、提携を単なる広告連携にとどめず、沿線価値の向上やシビックプライドの醸成を目的に据える意義を強調した。具体的には沿線住民をテーマにしたコラボ映像制作や子ども向けの体験プログラムなどで、地域への接点を拡大してきたという。
注目点は、これら活動の成果を定性的評価で終わらせず、SROI(社会的投資収益率)という指標で測定し、PDCAを回す姿勢を明確にした点だ。日笠マネジャーは健康意識の向上、地域への愛着、環境意識の変化といった成果を数値化する試みを示した。
交通と環境の接点、観客行動の活用
環境面では、来場者の移動に伴う排出量の低減が重要視された。プレゼンテーションでは来場者の約76%が公共交通機関を利用しているとのデータが示され、京王電鉄との連携を通じた移動面でのCO2削減が具体策として挙げられた。公共交通の利用促進は、観客動線と街の環境負荷軽減を同時に進める実務的な手段となる。
新シーズンに向けた現場の取り組み
今シーズンの新たな挑戦として、クラブは3つの具体的な活動を提示した。味スタでの「ナイトヨガ」、地域清掃を取り入れた「スポGOMI」、および「eスポーツ」イベントの導入だ。これらはいずれもサッカーの試合そのもの以外で来場者と地域住民をつなぐ場を広げる狙いがある。
京王電鉄の佐竹有香子課長は、地域に対する愛着や誇りを育むことが住み続けたい街づくりにつながると述べ、FC東京との連携に期待を示した。スタジアムという施設を核に、沿線や周辺地域の価値向上を目指すアプローチは、住民の日常とクラブ活動を接続する手法として注目される。
評価と波及効果——クラブの挑戦の先にあるもの
今回の発表は、単なるCSR報告を超え、クラブ運営と地域政策を結びつける実践的なロードマップを提示する点で評価できる。特にSROIの導入は、スポーツ団体が社会課題解決に向けた投資対効果を示す上で重要な一歩だ。定量化が進めば、他クラブや自治体、企業との連携を促す共通言語となり得る。
一方で課題も明確だ。定量評価を運用するためには、適切なデータ収集や評価設計、関係者間での合意形成が不可欠であり、成果が見えにくい「地域愛着」や「健康意識」といった指標の測り方には慎重さが求められる。
FC東京は今後、提示した方針をどのように実行に移し、社会的価値の可視化と改善につなげるのかが試金石となる。スタジアムで生まれる熱量を地域と環境の変化に結びつけられるかどうかが、首都圏のスポーツクラブの新たな役割を示す重要な事例となるだろう。