“観光以上・移住未満”の居場所
白い砂と青い海に囲まれた和歌山県白浜町のマリン施設。ここでツアーガイド業務に就く三浦直彦さん(60)は、春まで高校で英語を教えていた元教員だ。普段は秋田県で暮らすが、夏の一か月だけ現地で働く。勤務は天候により変動するが、通常は1日5〜7時間、週5日ほど。給料は約20万円と聞く。
一方、日本海側の温泉地、兵庫・城崎温泉では佐藤亜紀さん(59)が宿泊客の食事準備や配膳に携わっている。宮城県出身の佐藤さんは娘の出産支援が一段落したことを契機にリゾートバイトを選んだ。
- 短期間で生活費を抑えつつ貯蓄ができる
- 旅行では味わえない地域での生活体験が得られる
- 社会的経験を接客や運営に生かせるため雇用側にも利点がある
現場で語られる理由と日常
取材で共通していたのは、働き方を単なるアルバイト以上の「社会との接点」と捉えている点だ。三浦さんは長年の教員経験を引率や英語対応に生かし、客の安全確認や海の魅力を伝えることに喜びを感じている。夜はバイト仲間と一緒に食卓を囲み、秋田名物をふるまう場面もあるという。佐藤さんは育児で培った段取り力を調理補助に活かしつつ、不得手な調理の作業はチームで補完しながら新鮮な刺激を得ている。
「楽しみながら自分ができることで社会との接点が何かあるところを探して、役に立つのであれば色々やってみようかなと」
生活と仕事が近接する寮付きの勤務形態は、個室ではなく2人1部屋が一般的で、オーシャンビューの寮もある。勤務の合間には観光やマリンスポーツに挑戦するなど、地域資源を享受する暮らしぶりが目立つ。
観光側から見た利点と変化
人材派遣を手掛ける事業者のデータによれば、観光地で働く50代以上の人の数はこの10年で約8倍になったという。事業者側にとっては、接客や衛生管理、緊急対応で社会経験のある中高年が戦力となる点が評価されている。実際、6人のバイトのうち3人が50代以上という職場もある。
| 項目 | 取材での例 |
|---|---|
| 勤務時間 | 1日5〜7時間・週5日程度 |
| 給料 | 約20万円(事例) |
| 宿泊形態 | 2人1部屋の寮付き |
| 50代以上の増加率 | 10年で約8倍(事業者データ) |
働き手側の声が示す新たな価値
当事者の声から浮かび上がるのは、収入以外の“価値”だ。三浦さんは海での体験を人に伝えることに生きがいを見出し、若い同僚からは「人生の先輩」として慕われている。佐藤さんは家族の事情を踏まえた柔軟な働き方を求め、リゾートバイトがその要請に応えていると語る。世代や出身地が違う人々が共同生活を送ることで、互いの価値観が刺激されるという利点も報告されている。
「楽しいです。異世代の人や色んな所から来た人と会話して価値観を揺さぶられたりとか、好奇心が止まらない感じですね」
若者の夏季就労という従来のイメージから、定年前後や子育て後の世代が短期・中期で観光地に入る働き方へと広がることで、観光業の人手確保やサービスの質にも影響が出ている。雇用側は経験豊かな人材を受け入れることでクレーム対応や顧客満足の向上を期待できる。
課題と今後の視点
とはいえ課題も残る。短期雇用が中心であるため、人材の継続雇用や技能継承、労働条件の適正化などをどう図るかは地域と事業者の共通課題だ。また、季節変動の大きい観光業では収入の安定化が難しい場合もある。中高年の参入が増えることで、労働市場に多様性が生まれる一方、世代間の役割分担や安全管理のルール整備も求められる。
今回の取材で見えたのは、リゾートバイトが単なる一時的な収入源にとどまらず、生活のリズムや人とのつながり、自己実現の場になりつつあるという事実だ。観光地での日常の中に身を置き、そこでしか得られない体験を他者に伝える——そんな働き方が、中高年の新たな選択肢として定着してきている。
今後は、受け入れ体制の整備や待遇の改善を通じて、世代を超えた地域の労働力として持続的に機能させる取り組みが鍵になるだろう。