砂と共に暮らす知恵を現代へ――鳥取の小箒が動き出す
鳥取砂丘にほど近い鳥取市福部町で、住民の生活の工夫として受け継がれてきた小型の箒「バリンボウキ」を復活させる動きが本格化している。取り組むのは、同町でアウトドア複合施設「IWADO BASE」を運営する上田博隆さん(57)。電化製品の普及によって日常生活から姿を消しつつあった用具を、資材の栽培から制作、販売まで一貫して整え、地域発の工芸品として再び根付かせる計画だ。
バリンボウキは、玄関や階段に吹き込む砂を手早く払い落とすのに用いられてきた。鳥取では、風の強い日や観光シーズンの人流増加に伴い、細かな砂塵が暮らしに入り込みやすい。電動掃除機では扱いづらい隅や段差を、軽くて小回りの利く箒で素早く掃く――そんな土地柄の知恵が凝縮された生活道具である。
資材は砂丘由来の草木の根 採取規制を踏まえ栽培に転換
この箒の素材は、砂丘に生えるイネ科植物ケカモノハシのひげ根。乾燥地で水分や栄養を逃さないために発達した繊維が、しなやかさと弾力を生み、砂をはたくのに適している。もっとも、砂丘は国立公園に指定され、自然環境保全の観点から資材の採取はできない。上田さんはこの前提を踏まえ、約1,000平方メートルの土地を借りてケカモノハシを栽培する方針を定めた。
栽培によって安定供給を図るとともに、自然環境への負荷を避ける道を選んだ格好だ。生育環境の整備や収穫・乾燥工程は地道な作業が多いが、素材の品質が最終製品の使い勝手を左右する。長期的に続けられる体制を整えることが、地域に根差した工芸の再興には不可欠となる。
就労支援事業所と製作を分担 地域福祉と産業づくりを両立
製作工程は、地元の就労支援事業所に委託する計画だ。手元の細かな作業が求められる箒づくりは、熟練に応じて工程を分けやすく、技術習得の蓄積も見込みやすい。上田さんは、製作の場を地域の福祉と結び付けることで、仕事の創出と技能の継承を同時に進める。完成品は「IWADO BASE」や砂丘周辺の土産店での販売を予定し、地元の観光動線に沿った販路を確保する方針だ。
「地域に根付いた文化が消えてしまうのはもったいない」
――上田博隆さん
上田さんは東京出身の元会社員。各地での転勤を経て「海のそばで暮らしたい」という思いから鳥取へ移り住み、2年前に開業した。地域の人々との会話で耳にした“バリンボウキ”という言葉の響きが気にかかり、実物に触れ、展示で学ぶなかで、消えかけた生活文化を現代の手法でつなぐ決意に至ったという。
市民参加の仕組みづくり 8月14日までクラウドファンディング
プロジェクトは、市民や来訪者が参加しやすい資金調達の仕組みとして、クラウドファンディングを活用している。実施ページは公開中で、8月14日まで支援を受け付ける。集まった資金は、栽培環境の整備や製作体制の構築、販路開拓など、再生の初期段階に必要な費用に充てる考えだ。
| 概要 | 内容 |
|---|---|
| 取り組み | 「バリンボウキ」復活(資材栽培・製作・販売) |
| 実施主体 | IWADO BASE(鳥取市福部町)/上田博隆さん |
| 資材 | ケカモノハシのひげ根(砂丘由来のイネ科植物) |
| 栽培面積 | 約1,000平方メートル |
| 製作連携 | 地元の就労支援事業所 |
| 販売予定 | IWADO BASE、砂丘周辺の土産店 |
| 資金募集 | クラウドファンディング(8月14日まで) |
暮らしへの波及と観光の付加価値 地域が得るメリット
この再生の取り組みには、日常の利便と地域経済の双方にメリットが見込まれる。まず、砂が入りやすい住環境に適した清掃道具が再び手に入ることは、住民の生活負担の軽減につながる。加えて、観光地・鳥取砂丘の来訪者にとっては、砂のまちならではの実用土産となり得る。使い続けるほど良さが分かる生活道具は、地域を思い出す“手触りの記憶”としての価値も持つ。
製作工程を地元に根付かせることで、雇用の創出と技能の蓄積が期待される。素材の栽培から販売まで一つの地域で完結させる循環は、原料価格の高騰やサプライチェーンの乱れに強い仕組みでもある。観光消費の一部が地域の生産基盤に還元される姿は、持続可能な観光地経営の観点からも評価されるだろう。
地域文化をどう守り、使い続けるか
生活道具の文化は、使い手が減れば途絶えやすい。バリンボウキも例外ではなかった。電化が進むなかで、手道具は役割を失ったのではなく、役割の見直しを迫られている。砂を屋内に持ち込まないよう玄関先でサッと払う、電動機器の届きにくい溝を手早く掃く――こうした用途に焦点を当て、現代の住環境やインテリアに合う仕立てを考えることが、継承のカギになりそうだ。
上田さんは、まずは地域の足元で実用性と魅力を再確認してもらい、観光客にも広げたい考えだ。販路を砂丘周辺に置くのは、日常と観光の接点で文化を発信する狙いがある。地域の土産店にとっては、新たな地元発の定番商品を育てる好機にもなる。
市民ができること
- クラウドファンディングで支援する(~8月14日):プロジェクトページ
- 完成後、地元店舗で購入し、日常の清掃に活用する
- 周囲の高齢者や移住者に、バリンボウキの使い方や由来を伝える
「昔、納屋にあった」と懐かしむ声が、次の世代の「これがあると助かる」に変わるか。砂と共に暮らす土地の知恵を道具として手元に残す取り組みは、鳥取の文化資産を暮らしの現場から再構築する試みと言える。住民と来訪者がともに関わることで、砂丘の景観だけでなく、そこに根付く日常の工夫もまた、地域の誇りとして光を取り戻しそうだ。