地域に根差した診療所を次世代へ
新潟市中央区にある万代内科クリニックは、2007年の開院以来およそ20年、地域でのかかりつけ医として診療を続けてきた。院長の田村紀子医師が65歳を区切りに仕事を縮小し、後継を受ける医師へクリニックを引き継ぐ「医院承継」を選んだことが注目を集めている。
田村医師は、私的な事情や体力面を踏まえ「いつまでもできない」と決断する一方で、業者からの売却提案に対しては、患者との信頼関係を損ねる懸念から抵抗感を示した。そこで声をかけたのが、新潟市民病院時代の後輩医師である宗田聡医師だ。宗田医師は、田村医師が築いてきた診療の枠組みや患者の導き方が確立している点を評価して引き継ぎを受ける意向を示した。
「先生が築き上げてきた実績や患者さんを導く道、それがしっかりできあがっているので」 — 引き継ぐ宗田聡医師(報道より)
なぜ今、医院承継が注目されるのか
近年、クリニックの新規開業は建築費や医療機器の価格高騰などで厳しさを増している。こうした環境下で、新規に一から開業するより既存クリニックを承継する形は、初期投資や設備整備の面で負担を抑えられる点が評価されている。
また、承継は単に店舗や設備を引き継ぐだけでなく、患者との関係性や地域に根差した診療の継続を意味する。通い慣れた場所で同等の診療を受け続けられることは、高齢者や慢性疾患を抱える患者にとって重要な利点になる。
医師会の仲介による利点と住民への影響
承継の仲介を新潟市医師会が主導する取り組みも報告されている。岡田潔会長は、医師会主導での仲介により、民間仲介業者に比べ手数料が抑えられ、顔が見える信頼できる相手につなげられる利点があると説明している。
- 患者の受診継続:慣れた医師・施設で診療が続くため、受診中断による健康悪化リスクの低減が期待される。
- 費用面の軽減:医師会の仲介で手数料負担が抑えられる可能性がある。
- 地域医療の安定:後継者不足の解消につながり、地域に根差した医療提供体制が維持されやすくなる。
実際に万代内科クリニックでは、田村医師が週2回の勤務を続けながら引き継ぎを進めている。こうした段階的な移行は、患者説明や診療方針の継承、電子カルテや薬歴の引継ぎといった実務面での混乱を抑える効果がある。
地域で想定される課題と住民への注意点
一方で、医院承継が広がる過程で留意すべき点もある。承継先の診療方針や診療科目、保険取り扱いの細部に変更が生じる場合、患者側の負担や利便性に影響が出ることがある。住民は次の点に注意しておくとよい。
- 承継が決まったクリニックからの案内文や掲示を確認すること。
- 診療時間や保険取り扱い、処方方針に変更がないかを電話で事前に確認すること。
- かかりつけ医の変更に伴う通院経路や予約方法の違いを把握しておくこと。
上記は万代内科クリニックの事例に基づく実務上の示唆であり、承継の形態によって個別の対応は異なる。患者の不利益を避けるため、承継を受ける医師・旧院長双方による丁寧な説明と、医師会などの公的な仲介が重要となる。
今後の展望
地域医療を支える多くの小規模クリニックでは、院長の世代交代が近づいている。新潟市内での医院承継の取り組みが他の診療所にも波及すれば、地域での受診継続性の確保や新規開業の負担軽減が期待される。ただし、承継がすべての課題を解決するわけではなく、診療の質や診療科目の維持、地域ニーズとの整合性といった点で一つ一つ検証が必要だ。
住民は、かかりつけ医の告知や医師会からの情報に注意し、必要があれば早めに相談窓口を利用することが望ましい。医療機関側は、患者への周知、診療データの引継ぎ、地域医療機関との連携を丁寧に進めることが求められる。
(取材・文:松本 隆 プレスリリースジェーピー新潟支局)
| 項目 | 万代内科クリニックの状況 |
|---|---|
| 開業年 | 2007年 |
| 院長 | 田村紀子医師(引継ぎ実施) |
| 承継先 | 宗田聡医師(後輩医師) |
| 移行期間中の勤務 | 田村医師は週2回勤務 |