地元で育まれた集会所、保存へ
金沢市有松1丁目に建つ木造2階建ての上有松会館(築75年)が、地元の上有松町会の判断で保存・改修されることになった。会館は1951年に地元出身の実業家・南喜一氏が寄贈したもので、長年にわたり子ども会の行事や地域の催しに使われてきた。最近の老朽化と、2024年元日に発生した能登半島地震で生じたひび割れを受け、一時は解体も検討されたが、過去の記録を確認した町会側が寄贈の経緯や南氏の郷土への思いに改めて触れ、保存に方針転換した。
保存のための改修は、建物の間取りを保持しつつ耐震診断や耐震改修を行うもので、総工費は約1800万円。金沢市のコミュニティセンター整備補助等を活用し、国や市からの助成として1200万円が充てられる見込みだ。工事は年内完了をめざし、7月25日には現地で地鎮祭が執り行われた。関係者らが工事の安全と無事の完成を願った。
建築的特徴と地域史の重み
上有松会館は戦後まもない時期の擬洋風建築の面影を残す建物だ。左右対称の外観や腰壁のモールディングなど、当時の洋風志向を反映した意匠が見られる。こうした特徴は建物としての価値だけでなく、地域の生活史や文化の変遷を伝える物証でもある。数十年にわたる宅地化の進行で、元は農耕地だった周辺の風景も変わったが、会館は地域の記憶をつなぐ拠点として機能してきた。
住民の判断と継承の意志
町会が改修の是非を見直す契機となったのは、歴史的な記録を遡った調査だった。資料からは南氏が私費で建物を整え寄贈した経緯や、郷土への強い思いが確認されたという。町会役員のなかには、南氏を知る人が少なく、今回の調査を通じて「こんな先人がいたのか」と驚く声もあったという。こうした認識の変化が、地域の価値判断を保存へと導いた。
「建物だけでなく、人と人のつながりを次の世代に受け継ぎたい」
改修設計を担当した阿戸哲志さんはこう述べ、会館を今後も多くの住民が利用する場にしたいと話している。住民が日常的に集える場所としての機能を重視し、単に建築を保存するだけでなく、郷土の人物像や地域史の語り場として活用する方針だ。
住民にとっての具体的影響と利便性
今回の保存・改修は、地域住民の安全性と利便性に直結する。耐震診断・耐震改修が行われることで、災害時の被害軽減が期待できる。特に高齢者や子ども会の利用が多い地域行事での安全性確保は、住民の日常生活の安心感につながる。
- 耐震補強により地震時の安全性が向上する。
- 間取りを変えずに補修するため、これまでの利用形態を維持できる。
- 補助金活用により町会の自己負担が軽減される見込み。
実用面では、改修後の会館利用方法や予約手続き、利用料の有無などは町会が決定して告知する必要がある。地域の集いの場が残ることで、子ども会や地域サロン、避難所運営の拠点としての活用を想定した運営計画づくりが求められる。
次代へ伝えるための課題
保存決定は一歩だが、今後は維持管理の仕組みづくり、利用促進、歴史的背景の記録と公開が課題となる。建物の保存には定期的な点検や修繕資金が必要であり、町会だけで長期的に負担するのは容易ではない。地域外の支援や市の補助制度の活用、保存に賛同するボランティアの巻き込みなど、多面的な体制づくりが求められる。
また、建物の歴史や寄贈者である南喜一氏についての情報を整理し、会館利用者や次世代に伝えるためのパネル展示や小冊子の作成など、記録の仕組みづくりも重要だ。南氏は1893年生まれで、戦後にかけて実業界で要職を務めた人物であることが確認されており、その足跡を地域に残す取り組みは、地域アイデンティティの強化にもつながる。
町会は工事完了後、会館の利用方針や管理体制を示す計画を住民に説明する場を設ける予定だ。今後の情報は町会の掲示や市の広報を通じて告知される見込みである。保存決定により、建物は単なる建築物以上の意味を持ち、地域の日常と歴史をつなぐ拠点として再出発することになる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 建物名 | 上有松会館 |
| 所在地 | 金沢市有松1丁目 |
| 築年 | 1951年(築75年) |
| 総工費(予定) | 約1800万円 |
| 助成額(予定) | 約1200万円 |
| 工事着手 | 地鎮祭:7月25日 |
地域の歴史的資源の保存は、単に古い物を残す行為ではない。住民の記憶を結び付け、世代を超えた交流や防災拠点の維持につながる重要な取り組みだ。金沢のまちに根差す小さな建物が、地域の連帯と安全を支える場として再生する道筋が整いつつある。町会と住民が協力して会館を活用し、南氏の記した郷土への思いを後世に伝えていく具体的な取り組みが期待される。