地域の宝を後世へ残す決断
金沢市有松1丁目にある木造2階建ての上有松会館が、地元町会によって保存・改修されることになった。会館は1951年に実業家・南喜一氏が寄贈したもので、築75年の歴史を持つ。近年は老朽化が進み、畳の抜けなどの損傷が確認され、2024年元日の能登半島地震でひび割れが生じたことを受け、解体も選択肢として検討されていた。
「建物だけでなく、人と人のつながりを次の世代に受け継ぎたい」
この言葉は、改修設計を手掛けた町会メンバーの阿戸哲志さんのもので、保存決定の背景にある地域の思いを端的に示している。町会が過去の資料を調べた結果、南氏が私費で会館を建て寄贈していた事実や、郷土への思いが記された資料が見つかり、これが保存へと判断を転換させるきっかけになった。
建築的特徴と地域での役割
上有松会館は戦後の擬洋風建築の特色を残す建物だ。左右対称の外観や腰壁のモールディングなど、当時の洋風への憧れが反映されている。長年にわたり地元の子ども会の新年会やキャンプなど、町内行事の会場として使われ、地域の交流拠点の一つとして機能してきた。
改修の内容と財源
町会は建物の間取りを変更せず、耐震診断・耐震改修を中心に補強を行う方針だ。工事には金沢市のコミュニティセンター整備補助などを活用する。公表された数字は以下の通りである。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 総工費(予定) | 約1800万円 |
| 助成金額 | 1200万円 |
工事は既に地鎮祭が行われ、関係者約10人が安全を祈願した。完了は年内を見込んでいる。
住民への影響と利用の見通し
保存・改修により、地域の集会や子ども会の活動場所としての機能が維持される。町会関係者は、多くの住民に会館を利用してもらうことで、寄贈者である南氏の存在や功績を伝えていきたいとしている。間取りを変えない方針は、建物の歴史的な内外観を残す一方で、既存の利用形態を継続しやすくする実務的な判断でもある。
- 防災面:耐震改修により地震への備えが強化される。
- 福祉・世代間交流:子ども会など既存の地域活動の継続が可能。
- 文化継承:地元に縁のある人物の足跡を伝える場が保存される。
背景となる地域変化と保存の意義
上有松地区はかつて農耕地帯だったが、ここ数十年で宅地化が進んだ。変化の中で、地域に残る古い建物や先人の足跡を知る機会が減りつつある。町会の一部役員は、南氏について初めて知ったという。こうした状況下で会館を保存する決定は、地域の記憶をつなぐという点で意義が大きい。
南喜一氏は1893年生まれで、北國新聞社の活字工として働いた後に上京し、戦中から戦後にかけて実業家として活動した人物だ。地域に寄贈した会館は、個人のふるさとへの思いが形になったものとして住民に受け止められている。
住民への実務的情報
- 工事の補助:金沢市のコミュニティセンター整備補助を活用。
- 工期:既に地鎮祭を実施、年内の工事完了を予定。
- 利用再開:改修後は従来同様、町会や地域行事の会場として貸し出しを想定(具体的な利用手続きは町会が決定)。
保存に伴う工事中の利用制限や具体的な貸出方法、利用申し込みの窓口などは、町会からの今後の案内を確認する必要がある。町会は地域の会合や説明会を通じて住民に情報を提供していく見込みだ。
今後の注目点
改修が完了すれば、上有松会館は建築的な価値を残しつつ、防災性と利便性を高めた地域拠点として再出発する。住民にとっては、歴史的景観の保全と日常的な利用が両立されるかが関心事となる。町会は活用促進を掲げており、今後の運用方針や利用方法の具体化が住民の利便性に直結するだろう。
(金沢支局・木村 淳)