弘前れんが倉庫美術館で風間サチコ展、11月15日まで
弘前れんが倉庫美術館(弘前市)で、木版画家・風間サチコさんの大規模個展「方丈ルームの1000里眼」が開かれている。言葉にしにくい違和感や特定の土地の歴史などを出発点に想像の風景を描く作家の代表作や新作が並び、来場者に地域の記憶や日常に潜む不条理を可視化する機会を提供している。会期は11月15日までで、原則火曜が休館となる。
本展には、28枚の版木を用いた作品「ディスリンピック2680」(2018年、作家蔵)をはじめ、初期の大作「逆算の風景」(1999年)など、木版画の大型作品が出品されている。木版の重層的な組み合わせや、漫画表現を取り入れた画面構成が特徴で、画面には日常の広告や社会の構造を思わせるモチーフが折り込まれている。
- 展示の焦点:土地の歴史や出来事を題材にした作品群
- 主な出品作:「ディスリンピック2680」(28枚の版木使用)、「逆算の風景」(16枚の版木)ほか
- 新機軸:本展で初めて油彩に挑戦した新作5点を出品
「逆算の風景」は48センチ×82センチの版木を16枚用いて構成された大作で、左側の8点に住宅やマンションの姿、右側の8点にそれらを棒グラフのようにデザイン化した像を配する趣向になっている。この作品群の並びには、宅地開発や分譲といった現代的な事象に対する作者の視線が反映されている。
| 作品名 | 特徴 |
|---|---|
| ディスリンピック2680(2018) | 28枚の版木を使用(作家蔵) |
| 逆算の風景(1999) | 16枚の版木、各48cm×82cmの板を組み合わせ |
| 卒塔婆グラフ | 分譲の墓の数を棒グラフ化した構成 |
展示構成の中には、新聞折り込みチラシを契機に着想を得た作品もある。作者は、宅地や墓地の分譲が並列に提示される広告などに違和感を覚え、それを表現に落とし込んだ。担当の学芸員、宮本ふみ氏は「作家が『何だろう』と感じた瞬間が作品の発端になっており、皮肉やモヤッとする気持ち悪さも現実に起こっている事象をそのまま映している」と展覧会の意図を説明している。
「見た人がクスッと笑ったら、表現としては成功している」と風間さんは語る(出品作品の背景説明より)。
本展ではこれまでの木版表現に加え、作家が「木版に縛られていた自分の解放」を目的に初めて挑んだ油彩画が5点出品されている。これらの新作にはすべて「白鳥」が登場する。15年に青森で滞在制作した際に市内の書店で見つけた19世紀フランスの短編小説集の影響が大きく、その中にある白鳥が不条理に殺される物語を共振させたという。あわせて、北東北地方の伝統遊戯札「黒札」の図柄を抽象化したアクリル画4点も展示され、題名はいずれも短編小説集から引用されている。
地域の美術館で作家の多面的な表現を一望できる今回の展覧会は、弘前の文化施設に足を運ぶ契機となる。鑑賞に当たっては、展示室内の長尺作品や細部にわたるモチーフの読み取りが求められるため、通常よりも時間に余裕を持って訪れることを勧める。また、学芸員による解説や関連イベントの有無については、弘前れんが倉庫美術館の案内を確認するとよい。
展覧会は11月15日までの会期だが、会期中の休館日は原則火曜となっている。訪問前には開館状況を美術館の公式発表で確認することをおすすめする。
風間サチコさんの作品は、地域の歴史や日常の風景を読み解く手がかりを与え、来場者に考える余地を残す。弘前での展示は、地元住民や観光客にとって地域文化への新たな接点となるだろう。