業界拡大の陰で進む“選別”
帝国データバンクのレポートによれば、2026年1〜7月に発生した「フィットネスクラブ」事業者の倒産は23件となり、前年同期の19件を上回った。報告は、このペースが続けば年間で40件に到達する可能性があると指摘している。健康志向の高まりで利用者層は広がっているはずだが、事業者側には深刻な構造的課題が表面化している。
背景には複数の要因が絡む。とくに都市部を中心に駅近で低価格、24時間無人運営を掲げるいわゆる“コンビニジム”が急増し、限られた商圏内で出店が集中した結果、供給過多(オーバーストア)になっている点が大きい。出店競争は価格や入会特典の過度な引き下げを招き、短期的には集客を得ても継続率が低く収益が安定しない事業者が目立つ。
- 設立年数の若い新興ジムの倒産が全体の6割超を占める
- パーソナルジムの倒産も増加、1〜7月で6件を確認
- 人件費や光熱費の上昇で運営コストが膨張
とくに新興の小規模ジムは、初期段階で会員を確保するため「入会金無料」や「特別割引」を常態化させがちだ。しかしキャンペーン終了後に会員が離脱するケースが多く、定着率が上がらない。こうした“縦割り”の収益構造は、外的ショックや運営コストの増加に脆弱だ。
また、個人トレーナーがマンション一室などを利用して開業するパーソナルジムも問題を抱える。参入障壁が低いため参入は容易だが、指導の品質にばらつきがあり、利用者トラブルや事故の増加が懸念されている。加えて「短期集中」のプログラムを売りにするビジネスモデルでは、目標達成後に顧客が離れるため継続的な収益基盤を築きにくい。
帝国データバンクは「供給増やコスト上昇によって収益構造が大きく変化するなか、価格競争に巻き込まれる小規模ジムや、短期利用を前提とした従来型パーソナルジムの淘汰は今後も進むとみられる」と分析している。
運営側のコスト負担と人材問題
会員獲得のための広告宣伝費やキャンペーン費用は年々上がっている。さらに、特定の専門インストラクターを巡る引き抜きや、慢性的な人手不足に伴う人件費の上昇も重荷だ。加えて、近年のエネルギー価格上昇に伴う光熱費の増大が、設備を多く抱えるフィットネス施設の経営に直接的な打撃を与えている。これらのコストは会員料金の上昇に直結しやすく、価格敏感な利用者を失う要因にもなっている。
業態ごとの特徴を整理すると、以下の点が持続性に関わる主要課題として浮かび上がる。
- 無人・低価格ジム:集客は取りやすいが、会員の定着が課題
- パーソナルジム:高付加価値が期待できる一方で、品質管理と顧客継続が鍵
- 大手・サブスク型:安定収益化が可能だが、競争激化で差別化が必要
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 2026年1〜7月の倒産件数 | 23件 |
| 2025年同期間の倒産件数 | 19件 |
| 年度換算での試算 | 40件到達の可能性(報告) |
消費者側の視点と業界の対応余地
消費者は価格と利便性を重視する傾向が強まっている。24時間営業や駅近の利便性は利用動機として有効だが、健康維持や運動習慣の定着という長期的な価値を提供できるかどうかで事業者の命運が分かれる。報告は、月額の固定制やサブスクリプション型サービスなど、継続課金モデルで“体型維持”や“習慣化”を支援する仕組みの構築が肝要だとする。
現実的には、小規模事業者が単独でそのような仕組みを整備するには限界がある。業界再編や業務提携、運営効率化のためのIT投資、人材育成・品質管理に対する投資が今後の分岐点になるだろう。消費者保護や安全面の強化も求められる。パーソナル指導に関する資格や安全基準の明確化は、業界の信頼回復につながる可能性がある。
フィットネス市場は拡大を続ける一方で、事業構造の見直しを迫られている。健康ブームという追い風だけでは生き残れない現実が、最新データによって改めて示された。事業者側の戦略転換と、利用者側の価値判断の両面が、今後の業界の再編を左右するだろう。
(長谷川 由希/プレスリリースジェーピー 全国編集部・健康担当)