事件の「初動」から心の回復まで、現場経験をつなぐ支援
愛媛県警犯罪被害者支援室の課長補佐に今年4月に着任した藤久貴子警部は、長年の刑事経験を土台に被害者支援の強化に取り組んでいる。1998年に県警に採用され、組織犯罪対策課など刑事畑での捜査に長く従事した経歴を持つ。藤久警部は、捜査と支援では役割が異なることを自覚しながら、被害者に寄り添う支援を優先する姿勢を示している。
支援室の業務は、被害者や遺族に警察が最初に接触する点に特色がある。遺族の状況を早期に把握し、必要な支援を判断して関係機関につなぐ「初動支援」の重要性が高まっている。現場検証の立ち会いや裁判の傍聴、葬儀時のマスコミ対応など、被害者ニーズに応じた多面的な支援が求められている。
愛媛で初導入のドッグセラピーと多機関連携
取り組みの一つに、県警として全国に先駆けて導入したドッグセラピーがある。セラピー犬と触れ合うことで、被害者が心の内を表に出しやすくなったり、撫でる行為などを通じて心理的な安定が得られるとし、実務的な効果が期待されている。藤久警部は、セラピー犬が「傷ついた心を癒す重要な存在」だと話す。
また、今年4月には県内の複数機関が連携して被害者支援を途切れなく行う新たな体制『愛媛県犯罪被害者に対する多機関連携支援』が構築された。これは、警察以外の相談窓口、福祉機関、児童相談所などが役割を分担しつつ継続的に支援を行う枠組みで、長期的なケアにつながることが期待される。
刑事としての記憶が支援の原点に
藤久警部は刑事時代に見たある光景を、支援活動の「核」として挙げる。20年ほど前、児童相談所に入ることになった幼い兄弟の姿を忘れられないという。上の子が下の子の手を強く握りしめ、表情を引き締めて施設へと入っていった場面は、今も胸に残ると語る。この経験があるからこそ、同じような状況にある子どもや遺族の顔つきを変えたくないとの思いが支援につながっている。
「私は刑事になりたかったから警察官になりました。刑事になって、被疑者の取り調べに従事したかった」
こうした現場感覚を持ちつつ、藤久警部は被害者に接する際に注意していることとして、かつての捜査時の習慣を改める必要があったことを挙げる。刑事時代は情報を得るために聞き取りの確認をしがちだったが、支援の現場では被害者のペースに合わせてじっくり話を聴くことを心掛けているという。
広報と関係構築:手作りの「ギュっとちゃん」人形
被害者支援の取り組みを広く伝えるために、藤久警部は裁縫の得意技を生かして手作りの人形を作成している。警察庁がシンボルにした「ギュっとちゃん」を模した人形で、講演会などで子どもが人形を抱いて離さないことがあるといい、実際の現場で安心感を与える一助になっている。
- 警察は事件発生時に被害者と最初に接触するため「初動支援」を担う
- 県警はドッグセラピーを取り入れ、心のケアを補強
- 多機関連携で継続的な支援につなげる仕組みを整備
地域への影響と今後の課題
被害者支援の強化は、被害を受けた本人や遺族の生活再建に直結する。初動での対応が適切であれば、心理的負担を軽減し、継続的な相談につながりやすくなる。特に子どもや高齢者など支援が長期化しやすい層に対しては、福祉や医療、教育機関との連携が重要だ。
一方で、支援体制を確実に機能させるには、人材と資源の確保、関係機関間の情報共有と守秘、地域住民への周知が不可欠だ。ドッグセラピーのような新たな手法を定着させるためには、運用基準や効果検証、医療・心理の専門家との連携が求められる。
愛媛県内で被害に遭った場合、最初に接触する可能性が高いのは県警の窓口になる。支援を必要とする状況があれば、警察を含む関係機関が連携して対応する体制が整いつつあるが、具体的な利用方法や受付時間、相談窓口の場所など詳細は各機関の案内で確認する必要がある。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1998年 | 藤久警部が県警に採用 |
| 今年4月 | 藤久警部が犯罪被害者支援室へ配属、県内の多機関連携支援が構築 |
被害者支援は、警察が解決すべき犯罪事実の追及と並行して、人の生活と心の回復に寄与する活動だ。現場での経験を踏まえた視点で支援を組み立てる取り組みは、被害者が再び日常を取り戻す上で重要な役割を果たす。県民が安心して暮らせる地域社会をつくるためにも、制度の周知と実効性のある運用が今後の焦点となるだろう。