1970年創業の日本最古のハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」が、意表を突く商品づくりで5年連続の黒字を確保している。最盛期に400店超を展開した同社は、現在26店舗。規模は絞られたが、東京・浅草の本社一角にある約6畳のキッチンから次々と“話題作”を送り出し、V字の回復軌道を描いている。
小さな現場、大きな反響——“6畳の心臓部”
本社は雑居ビル内。棚には調味料や調理器具がずらりと並び、作業台が足りなければ冷蔵庫の天板まで使う。そこで鍋とフライパンがリズムを刻むたび、SNSのタイムラインがざわめく。開発の中枢を担うのは、2017年から商品づくりを率いる浅田裕介氏を含むわずか2名のチームだ。週2〜3回の試作を重ね、月1品ペースで新作を世に出す。
量産体制の制約は、むしろ味づくりの自由度を高めた。店舗規模が限られるため、オリジナルソースを大ロットで製造するのは非現実的。そこで市販品を幅広く取り寄せ、ブレンドで個性を引き出す。バックステージは簡素でも、味の設計図は緻密だ。
意思決定は“即日”が原則
スピードはこの現場の通貨である。大手であれば商品会議や決裁の“関所”が幾重にも続くが、ここでは社内で即座に試食・意見交換を重ね、改良を加える。早ければ約2週間で商品化が決まるという。出来たての試作品は隣室へ直行し、社長の反応がその場で戻ってくる。
「社長が『美味し〜い!』って!」
そんな一声が、開発室の空気を一変させる。成功体験は次の挑戦の呼び水になる。
“丸ごとカニ”が示した方角
同社の象徴となったのが、ソフトシェルクラブを1匹丸ごと挟んだ「丸ごと!!カニバーガー」だ。誕生当初、社内からは懐疑の目も向けられた。
「冗談でしょ?」「見た目がグロテスク」「こんな高額バーガーが売れるわけがない」
だが、公開された調理シーンがSNSで拡散すると、予想は鮮やかに裏切られる。用意していた2カ月分の在庫が数日で完売。仕入れ先からは、国内のソフトシェルクラブが“姿を消した”と連絡が入り、会社全体の売上は約1.5倍に跳ね上がった。非常識とされた発想は、顧客の好奇心と食欲を同時に刺激するルートを切り拓いたのである。
奇抜さに飲み込まれない“旨さの芯”
一方で、同社の狙いは“映え”の一発勝負ではない。量で素材の魅力を前面に押し出すアプローチも貫く。かつて販売した「今夜は まいたけバーガー」は約200gの舞茸を1個に惜しみなく使用。「春菊かき揚げバーガー」も香りを存分に楽しめる量感で提供した。見た目の驚きだけに頼らず、「また食べたい」に接続する味の完成度こそがKPIだ。
メニュー構成も針路がぶれない。インパクト系ばかりに偏らぬよう、チキンの旨味を素直に立てた新作「ジンジャーチキンバーガー レモンタルタル仕立て」のような“王道の美味しさ”を必ず織り交ぜ、ラインナップ全体のバランスを保つ。
見据える主役は“若者”だけじゃない
SNSの主戦場は若年層だが、ドムドムの主たる来店層は40〜50代とファミリーだ。多くの店舗がスーパーやショッピングセンター内にあり、日常の買い物動線に重なる。だから味づくりの軸足は、甘さ控えめ・重すぎない“やや大人”へ。若者向けの濃厚ジャンク路線に振り切らず、日常に戻っていける後味を残す。
数字でみる再生の軌跡
| 指標 | 数値・内容 |
|---|---|
| 創業 | 1970年(東京都町田市) |
| 最盛期の店舗数 | 400店超 |
| 現在の店舗数 | 26店舗 |
| 収益状況 | 5年連続黒字 |
| 象徴商品の効果 | 全社売上約1.5倍、在庫2カ月分が数日で完売 |
| 開発体制 | 2名、週2〜3回試作、月1品投入 |
| 商品化までの最短 | 約2週間 |
“小回り”は戦略資産
本社キッチンから会議室までの数歩が、通常なら数カ月に及ぶ社内プロセスを短縮する。組織の層が薄いことはハンデになり得るが、ここでは意思決定の速さという武器に転化されている。さらに、工場生産に縛られないソースのブレンドや素材選定の機動力が、企画から提供までのリードタイムを圧縮。試作と検証の反復が高頻度で回るから、ヒットの兆しを掴めばすぐ深掘りできる。
- 小規模ゆえの迅速な試作・決裁
- 市販ソース活用とブレンド発想で独自性を確保
- “映え”とリピート性の両立を設計
- 40〜50代・家族に軸を置く味づくり
次の一手は“ご当地アレンジ”
開発現場では、名古屋エリア向けに「丸ごと!!カニバーガー 名古屋みそ味」という新たな構想も温められている。地域に寄り添った味付けのアレンジは、同一商品の体験幅を広げる定石。SNS発の話題性と、土地の食文化への親和性を掛け合わせる一手は、再び関心の波を生むだろう。
外食が学ぶべき“余白”
人も設備も最小限。だが、その“余白”が発想を伸び伸びと泳がせる。目新しさだけでなく、食べ終わった瞬間にふっと湧く「また食べたい」の感情まで逆算する。ドムドムの再生は、規模や資本に左右されない競争力の作り方を示した。次の驚きが出てくるのは、きっとまた、あの6畳だ。