製作地のイメージ配慮で上映中止
ひどい作りで話題となっている中国のアニメ映画『牛来』が、製作会社の所在地である大連市内の映画館で上映を取りやめられたと、中国紙「揚子晩報」が報じた。映画館側は、作品が大連のイメージに悪影響を与えることを懸念したためだと説明している。
同紙の報道によれば、大連市内の複数の映画館が『牛来』について上映中止の通知を受け、以後は上映しない方針を明らかにした。映画館側の説明は次のようなものだという。「大連では上映できない。大連の人が作った映画なので、大連のイメージに悪影響を与えることを心配しているからだ」。
他都市での興行状況と対照
一方で、大連での上映回数が事実上ゼロとなったのとは対照的に、上海や南京など他の都市では通常通りの興行が続いている。揚子晩報の記者が16日に調べたところ、当日は上海で約100館が上映、南京では64館が上映枠を設けており、23日までのスケジュールが組まれている例も確認された。
| 都市 | 確認された上映館数 |
|---|---|
| 上海 | 約100館 |
| 南京 | 64館 |
作品と製作背景
『牛来』は前身が内装会社の「大連璟園文化影視伝媒有限公司」が製作。監督は信雨萌氏で、モデリング、アニメーション、編集、声優など制作の大部分を監督自身が担い、母親の孫麗芳氏も脚本と声優、エンディング曲で関与した。母子2人で約5年をかけて完成させたとされる。
公式アカウントによる認識と声明
作品を巡る関心の高まりに対し、SNS「微博(ウェイボー)」上で「映画『牛来』公式アカウント」を名乗るアカウントが声明を出している。その中で制作側は自らの制作状況に触れ、映像や物語面で明らかな弱点があることを認めるとともに、条件が限られた中での挑戦だったと説明した。
「率直に申し上げれば、成熟した劇場用アニメーションの製作水準と比較すると、本作には映像や物語などの面で、明らかな弱点や心残りがあります。製作全体を通じて条件は非常に限られており、素朴で不器用な〝夢を追いかける挑戦〟でした。最終的に映画館の大スクリーンで上映できたこと自体、当初は望むことすらできなかった結果です」
背景と影響をどう読むか
今回の取りやめは単なる興行調整の範疇を超え、地域の「イメージ」を理由にした措置である点が注目される。外形的には作品への地元の評価や配慮と説明されているが、文化政策や自治体・産業の立場が影響した可能性も含め、複数の解釈が生じる。
考えられる影響は次の点だ。
- 製作地と作品の関係性:製作が地元の事業者によるものである場合、地域がその作品を「代表」とみなされるリスクを嫌う傾向がある。
- 表現と自主規制:品質や内容に対する社会的評価が、上映可否に影響を与えるケースは表現の場を狭める可能性がある。
- 興行への実務的影響:大連での上映中止は地域の配給網や興行収入に一定の影響を与え得るが、他都市での上映が継続している点は興行面の棲み分けを示す。
留意すべき点
報道は揚子晩報の取材に基づく。大連の映画館側は上映中止の通知を受けたと明かしている一方で、南京の映画館担当者は現時点で正式な上映中止の通知は受けていないと述べ、今後取りやめを求められる可能性があるとの未確認情報を挙げている。したがって、地域ごとの対応は今後も流動的である。
作品側の声明は、制作条件の制約と「挑戦」としての制作過程を率直に認めたものであり、観客側の好奇心を誘う自己言及的なトーンを含む。こうした自己評価が実際の興行成績や批評、さらに地域的な取り扱いにどう影響するかは注視に値する。
映像作品が地域のプライドや産業イメージと結びつくとき、作品そのものの出来不出来以上の外的要因が上映の可否を左右する。本件は、その微妙な力学を改めて示した事例と言える。とはいえ観客の関心は根強く、他都市での上映状況からみると、話題性が興行を後押しする側面も見え隠れしている。
結局のところ、映画はスクリーンで観られて初めて完成する。大連でのスクリーンが閉ざされた今、その完成は観客の眼差しがどこに向くかにも左右されそうだ。最後は、見に行くか見送るか、観客の判断に委ねられる――それが映画の惜しみない強さでもある。
(佐野 悠斗)