調査が示した投資の優先順位の変化
世界25カ国・地域の1,590社を対象としたEYの調査は、企業がテクノロジーを選ぶ際の基準が大きく変わりつつあることを示した。従来は機能や価格が重視されがちだったが、近年はサイバーセキュリティやデータ保護、そして国家レベルの政策動向を踏まえたデジタル主権が投資判断で重要視されるようになっている。
調査はまた、AI関連技術、特にAIを用いるエージェントへの関心が高いこと、そして企業がクラウド戦略を見直し、ソブリンクラウド(主権クラウド)への投資を計画している点を明らかにした。
主要な調査結果と数値
| 項目 | 回答割合 |
|---|---|
| AIエージェントへの投資(実施または1年以内に計画) | 66% |
| テクノロジー政策を重要視 | 89% |
| ソブリンクラウドへ投資計画 | 53% |
これらの数値は、企業が単なる技術採用にとどまらず、技術を取り巻く外部環境—特に規制や地政学的リスク—を重視していることを示している。
背景:地政学と規制の影響
調査では、データ保護やデジタル主権に関する政策・法令が、企業の投資判断において競合動向以上に重要視される傾向が確認された。加えて、貿易摩擦や関税問題などの地政学的な不確実性も、投資計画の見直しを促す要因として挙げられている。
こうした外部要因を背景に、企業の約7割台に相当する割合がベンダーとの関係性を再検討しており、従来の長期投資プランを見直す動きが広がっている。
ベンダー選定の最優先事項は「セキュリティ」
本調査は、ICTベンダーを評価する際に企業が最も重視する要素としてセキュリティを挙げている点を浮き彫りにした。これは顧客データの保護や各国の規制遵守が背景にあるとされる。次点には、提供サービスにAI機能が組み込まれているかどうかが位置づけられており、特に金融、自動車、製造といった業種で重要度が高い。
「企業の技術投資の計画や判断において、データに関する新たな政策や法令を含むさまざまな要因が検討されています」と調査の関係者は指摘している。
調査は、セキュリティを強化する新たなサービスやAPI、ソブリンクラウドへの対応が、通信事業者など既存のサービスプロバイダーに対する新たな成長機会を生む可能性にも言及している。
ソブリンクラウドの台頭と企業の意図
ソブリンクラウドへの関心は、データの所在や管理に関する規制順守、サイバー対策、顧客信頼の確保といった目的で高まっている。調査によれば、回答企業のうち既に投資を行っている企業は一定割合にとどまるが、過半数が今後投資を予定している点は注目に値する。
- 主な投資目的:サイバーセキュリティとデータ管理、顧客信頼の確保、規制順守
- 企業の対応:ベンダー関係の見直し、長期計画の再評価
- 業界別の重点領域:金融・自動車・製造でのAI機能重視
この傾向は、サービス提供側にとっては製品やサービスの差別化を図る新たな要求を生み出す一方で、グローバルなサプライチェーンや国際的な取引関係には新たな摩擦点を導入する可能性がある。
企業とベンダーの役割変化
調査はまた、企業がベンダーに対して単なる供給者以上の役割、つまり「戦略的パートナーシップ」を求める傾向を示している。約4割強の企業が、自社の事業課題や技術的優先事項を深く理解することをベンダーに期待しているとしている。
この期待は、ベンダー側に対しては技術提供だけでなく、規制対応やセキュリティ施策、さらには顧客の事業戦略に沿ったソリューション提案能力を求めるものである。
示唆と国内企業への影響
日本企業にとっても、本調査の示す潮流は無視できない。グローバルに分散したサプライチェーンや海外市場での事業展開を図る企業は、データ管理や通信インフラに関する各国の政策変化を踏まえた対応が必要となる。とくに、クラウドサービスやAIを活用する際の法令遵守、データ所在の管理方法を見直すことは、事業継続性と信頼確保のために重要だ。
一方で、ベンダー側はセキュリティ能力の見える化、AI機能の統合、そして顧客の戦略的ニーズへの理解を深めることで競争上の優位性を確立できる可能性がある。国内外の政策動向を注視しつつ、技術とガバナンスの両輪で対応を進めることが求められる。
今後の注目点は、各国の政策変化が企業の投資決定にどのように反映され、実際のシステム構成やクラウド利用の形態がどう変わるかである。企業側とベンダー側の双方が協調して、新たなリスクと規制環境に適応できるかが、当面の競争力を左右する要因になるだろう。