甲府で没後初の回顧展、色彩と構成の変遷を提示
前衛表現から絵画へと回帰し、絵画そのもののあり方を問い続けた画家、中西夏之(1935~2016年)の没後初となる回顧展が、山梨県立美術館(甲府市)で開かれている。展覧会は制作の長期的な変化をたどる構成で、地元に縁のある時期の制作や晩年の実験的手法を含む作品群が並び、来館者に作家理解の幅を広げる機会を提供している。
1960年代には路上でのパフォーマンスや「コンパクト・オブジェ」など前衛的な実践で知られた中西が、やがて舞台美術を手がけるなかで「色」による表現の可能性を再認識し、絵画へ回帰した経緯が、本展では丁寧に示されている。展示される作品は、オレンジや黄緑、紫といった鮮やかな色彩が白を基調にした画面から浮かび上がるように配置される特徴を見せる。学芸員の下東佳那は、本展の作品が「空間に佇んでいたくなる」性質を持つと評している。
「いつまでも一緒の空間に佇んでいたくなる絵です」
色彩の選択と配置には作家なりの理論が感じられる。オレンジと黄緑は互いに引き合いながらも拮抗する関係として扱われ、紫は「祈るように塗る」と表現される孤高の色として位置づけられた。ときには「緑は白よりも白い」といった逆説的な主張を作品に反映させる試みもあったという。こうした色彩へのこだわりは、作品の視覚的な緊張と静けさを同時に生み出す要因となっている。
また、中西は画面の構成や制作手法でも独自性を追求した。直線に見える画布の縦辺を巨大な円の一部とみなす発想から、弓形の竹を絵画に接合するような装置的な手法を導入した作品がある。さらに、晩年に用いた1メートル前後の長い柄の筆は、画家自身が画面から距離を取り「遠隔操作」を意識して描くための道具となった。この姿勢は、画面と身体の関係、制作行為のあり方を再考させる要素だ。
阪神淡路大震災(1995年)以降には「揺れている」状態の表現を追求し、画面中央に白い「X」モチーフを集積させることで不安定さを示す試みも行われた。さらに、同一構図で地塗りの色を入れ替える「地塗反転」といった連作的手法により、同じモチーフの中で色彩や印象を変化させる試行が見られる。こうした実験的な制作の流れは、本回顧展を通じて一貫性をもって提示されている。
展覧会では、年代を追って作品を配置することで制作の転換点や反復の意図が見えるよう工夫されている。中西が1990年代から2007年まで山梨県大月市にアトリエを構えていた事実も紹介され、県内での制作活動が作家の後期における表現に影響を与えた可能性を窺わせる構成となっている。
地域への影響と鑑賞上の留意点
甲府での回顧展は、県民や来訪者にとって以下のような具体的な意義を持つ。
- 地域文化の再評価:県内で活動した時期を含む展示により、山梨が作家活動に果たした役割が可視化される。
- 教育資源としての活用:美術教育や鑑賞教育において、前衛から絵画への移行と技術的工夫を示す教材となり得る。
- 観光誘致の契機:甲府の文化行事として、国内外からの来館を促す効果が期待される。
展覧会は、個々の作品を単独で眺めるだけでなく、連作や制作年代を通じた比較が理解を深める鍵となる。展示室では色彩のニュアンスや筆致、画面外との関係性に注目すると、作家の思索過程がより明確に見えてくる。
| 会場 | 山梨県立美術館(甲府市) |
|---|---|
| 会期 | 開催中~8月23日まで(新聞報道による) |
| 休館日 | 月曜日 |
展覧会は8月下旬までの開催で、会期中の休館日が設定されているため、訪問の際は事前に開館状況を確認することを勧める。特に、混雑が予想される週末や夏季期間は入場待ちが生じる可能性があるため、時間に余裕を持って計画したい。
今回の回顧展は、前衛的な実践を経て絵画表現へと立ち戻った一人の作家の軌跡を地域で改めて示す試みだ。色彩と構成を通じて絵画の可能性を問い続けた中西の仕事は、山梨の美術史のなかで再評価の契機を提供すると同時に、鑑賞者にとっても新たな視座をもたらす機会となっている。
(清水 悠・プレスリリースジェーピー山梨担当)