尾道の“攻防”に一区切り、木彫りのケンちゃんが館内を巡回
尾道市立美術館(尾道市)は7月3日、亡くなった地域で親しまれた黒猫「ケンちゃん」に代わり、作家のはしもとみお氏が制作した木彫のケンちゃんを館内に入れる行事を行った。館長の梅林信二氏の企画で、同館で4日から開幕した夏の特別展「はしもとみお木彫展」の前日に合わせて実施された。
ケンちゃんと警備員の馬屋原定雄さんとのやりとりは、2017年3月に当時の展示会場に入ろうとするケンちゃんを馬屋原さんが止める様子がSNS(当時のツイッター、現在のX)で拡散したことがきっかけで、以降“猫と警備員の攻防”として度々話題になっていた。馬屋原さんは年に四回行われる特別展の際に出勤するため、そのたびに来館者や美術館職員が両者のやりとりを期待してカメラを構えてきたという。
しかし、ケンちゃんは昨年9月に亡くなった。梅林館長は学芸員として約7年にわたり両者の様子を撮影してきた経験を踏まえ、「ケンちゃんが亡き今、木彫りのケンちゃんに入館してもらい、美術館の中をじっくり鑑賞してもらおう」と追悼を込めて館内巡回を企画したと説明している。
入館当日は館長の梅林氏、はしもと氏、彫刻の搬入を担当したヤマト運輸の担当者らが正面玄関で見守る中、馬屋原さんが木彫りのケンちゃんを抱え、ヤマト運輸の担当者が茶トラ猫のモデル「ゴッちゃん」の木彫を抱えて入館。三つの展示室を約30分かけて巡回した。特に滞在時間が長かったのは、かつてケンちゃんと馬屋原さんの“攻防”の舞台となった正面玄関で、馬屋原さんは木彫りのケンちゃんを上下左右に動かしながら、記憶をたどるようにしていたという。
「いろんなことを思い出して、いつもと違う感じやったね。ケンちゃんは今ごろ、どうしよるんかね」
馬屋原さんは巡回後にそう語った。館長は、館内を巡った木彫りのケンちゃんを展示室で常設的に展示するかどうかは今後検討するとしている。
地域に残る日常の風景と文化資源としての価値
今回の木彫り入館は単なる話題作りではなく、地域に根づいた「日常の風景」を美術館の記憶として取り込む試みとも言える。地元の飲食店で飼われていた実在の猫が、長年にわたって市民の注目を集め、展覧会の場面で象徴的なやりとりを生んだ。そうした出来事は地域の文化的文脈を豊かにし、観光や市民の交流にもつながる可能性がある。
はしもとみお氏は動物のありのままの姿を木彫にすることで知られ、過去にケンちゃんとゴッちゃんをモデルにした作品を制作している。今回の特別展では両者をモデルにした彫刻が展示され、ポスターにも採用されていることから、地元の来館者だけでなく観光客にとっても親しみやすい構成になっている。
来館者への実用情報
- 特別展「はしもとみお木彫展」開催期間:7月4日〜9月6日
- 入館時間、入場料、休館日などの詳細は尾道市立美術館の公式案内で確認すること(当記事では未公表のため、直接の確認を推奨)。
- 正面玄関周辺はかつての“攻防”の舞台として記憶されており、展示とあわせて付近の歩行時には他来館者への配慮を。
今回の入館は、来館者にとって追悼と記憶を共有する機会になった。美術館側は、地域で親しまれた個人(ここではペット)をきっかけにした展示や企画が、地域文化の継承や観光振興に寄与するかどうかを注視しているとみられる。梅林館長は学芸員時代から撮影してきた資料を背景に、今後も地域の記憶を丁寧に取り扱う姿勢を示している。
展示情報のまとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 展覧会名 | はしもとみお木彫展(夏の特別展) |
| 会期 | 7月4日〜9月6日 |
| 主な出展作 | ケンちゃん・ゴッちゃんをモデルにした木彫 |
尾道市立美術館は地域に根ざしたエピソードを発信する場としても機能しており、木彫りのケンちゃんの入館はその象徴的な一例になった。来館を検討する市民や観光客は、会期中の展示内容や開館時間を公式情報で確認のうえ、会場での鑑賞を心掛けてほしい。